実験協力経緯

 芦原蛯名は、元プロダクトエンジニアだった。


 企画設計・製品管理に重点を置き、新たな製品を生み出す。それを繰り返し続けた。最低限のコミュニケーションを行い、業務を機械的にこなす。


 生きるためには、仕方ないことである。面倒くさい会合も、取り繕った笑みを浮かべて汗水流して働くことも。ただ、生きるために行う作業でしかない。そんな一般的認識を持ちながら、彼は働いていた。


 文句の一つも言わない彼は、会社にとっては有用な駒であった。しかしながら、駒とはいっても決して認められてはいなかった。どれだけ努力したとて、彼には手に入れられないものがあった。


 それは、愛想よい行動だ。小さいころから他人にかかわることを比較的してこなかったためか、彼は少しばかりそういうやり取りが苦手であったのである。しかし、悔いたとて過去に戻れるわけでもない。何より、彼自身がそれを嫌っていたのだからどうしようもなかった。


 そんな芦原に、転機が訪れた。

 電柱に張り付けられていた一つの広告が目に付いたのだ。

 

***


 実験協力者募集中!


 我々、足利未来研究所は将来役に立つシステムを社会に生み出すために日々尽力しております。それに伴い、私たちは実験協力者を集うことになりました。年齢や職種、資格などは問いません。どしどし、ご応募ください。

***


 明らかに胡散臭い。そんな考えをよぎらせる文面であった。

 芦原は軽く目を通したことに対して損した気分になりながら目線を下げた。

 そんな時だった。彼は一番下のページに書かれた内容に対し目を大きくした。

 

 そこには、実験協力金五十万円と書かれていたのである。

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