第28話 ルーダン魔王国4

 左手に海岸を見ながら獣道をのんびりと進む。ベータ時の夏イベントのままだとすれば海岸沿いは比較的モンスターのレベルも低くなっているらしい。


 店長の予測ではフォルダンの街まで半分ぐらいのところまで来ているとのことだ。


「さて、エリアボスが出るならそろそろだからアズも用意しとけよ」

 とは言うもののケイも全くと言ってよいほど緊張感の欠片もない。


「けど、出てもすぐ倒されそうな勢いだよな。俺が出る幕なんて多分ないぞ」

 そもそも、こちとら始めたばかりの超初心者である。アンメモの仕様上レベルだけはそれなりに上げられはしたがベータ勢に比べてレベルもプレイヤースキルも圧倒的に劣っている。


「ん、アズが魔法使わないとドロップアイテムで唐揚げが出ないから頑張れ」


「エビの唐揚げやエビせんも美味しかったよね。となるとアズくんにラストアタックは譲ったほうがいいかな?」


「いえ、アビスエビスの時もアズさんがラストアタックというわけではなかったですから、魔法でひと当てすればいいんじゃないですかね」


 女性陣からの圧から目を逸らすように店長の方を向く。


「アズ君の魔法によってドロップアイテムとドロップ率を検証はしたいが……、どうやら前の方が騒がしくなったみたいだね」


 店長も好戦派となると残りは……。


「俺、ちょっと確認してきます」

 言うなりケイが駆け出していった。逃げたな……。


「エリアボスが出たかもしれないから私達も急ぎましょう」


 兎兎ととさんに促されて全員小走りで進んだ先には他の攻略メンバーと、見知らぬ武装集団が集まっていた。



 ◆ ◇ ◆



「どうやらエリアボスが討伐されたみたいです」

 様子を見に行ったケイが戻ってきて状況を説明してくれた。


 エリアボスは南側に出現した蛸蜘蛛ポルポラと同じだが少し小振りとのことだ。なお倒したのはプレイヤーではなく、フォルダンの街の自警団と冒険者らしい。


「小振りということは弱体化したエリアボスがリポップしたのか、夏イベの後に調整が入ったかだろうね」


 解体され竜車に載せられる蛸蜘蛛ポルポラを見ながら店長による解説が入る。


「そう言えば、現地の人NPCでもエリアボスを倒せるじゃなくて、エリアボスに遭遇することができるんですね」

 てっきりエリアボスなんかはプレイヤーだけが遭遇するものと思っていたが今回のケースだと先に倒されてしまっており、眠茶ミンティーさんとかが非常に悔しがっている。


「あー、アンメモはそのあたりは大雑把というか、NPCとプレイヤーの区別は殆どないと言ってもいいかな。これまでのNPCを思い返して見ればわかると思うけど、言われなければ……いや、言われてもNPCとプレイヤーの区別はつかないと思うよ」


「確かに魔人族の隠れ里の人達も普通ってのもなんですけどAIっぽさもなかったですし、今の今までNPCって忘れてました」

 思い返せば王都の図書館のネーメさんとかも普通に受け答えしてたし、むしろゲームの中だと忘れていた気がする。


「アンメモを遊ぶうえではそれで正解だと思うよ。ここは剣と魔法の異世界であり、ある意味、別の現実リアルと思ってた方が楽しめるしね。で、現状での現地の人NPCと我々の違いと言えばシステムメニュー関連が扱えるかなんだけど……」


「一部の人はシステムメニュー使ってたもんねぇ、ほら、ミラちゃんとか配信見てたし」


「ミラちゃん?」

 兎兎ととさんが言うミラちゃんがわからないがNPCが配信見れるってそれはNPCの領域なのだろうか。


「アズは知らないか。夏イベントで出てきた吸血鬼族ヴァンパイアのお姉さんだ。あっ、もしかしてミラさんに会えたりする?!」


「ん、ケイうるさい。ロコノオ城下街に行けば会えるかも。あと、ミラはバザーに食べ物を出品してくれてたから神」


「えっ?! 眠茶、それ僕聞いてないんだけど……」


「ん、『あいことば』設定の限定バザー出品だったからライバルは少ないに限る」


「それだとNPCにもバザー権限があることになるんだが……あ、店を任せたりとかできるようになるのか?」


 なんだか考え始めた店長は放置し、蛸蜘蛛ポルポラが載せられた竜車を追いかけるようにフォルダンの街への道を進む。

 ちなみに街への道は徐々に整備、舗装が施されつつある。


「ところでケイ、俺のメニューにはバザーがないのだが?」

 ぽちぽちとシステムメニューをいじっているが見当たらない。

 なお、アンメモでのバザー機能とはプレイヤー同士で物を売り買いできる機能で、値段をつけて出品されたものを顔をあわせなくても任意に買う事ができる機能らしい。


「そうなのか? 俺のにはあるぞ。エフィさんは?」


「えーと、私も使えますね。確かバザー機能は探索者シーカー登録するかクランに所属すれば使える基本機能ですから……、あぁっ! もしかしてアズさんはどっちも未登録だったりします……ね」


「お、おぉ。そういや初心者クラン勧誘からハブられて『コトの街』に行くつもりがこんなとこに居るな」


「あれ、アズってば『ジャバウォック』に入ったわけじゃないんだ」


「そうそう、入ってはないのよねー、アズくんもウチの子になる?」

「お、入るなら歓迎するよ。まあ、入んなくても半分ぐらいメンバーみたいな扱いだけどな」


「ちょっと、アズさんを取らないでください。それならウチのクランに……って、あぁ、『戦乙女ヴァルキュリア』は無理かぁ……」


「クランかぁ、まだ良くわかってないんで、とりあえず、このままで。でも店長に兎兎さんも誘ってくださってありがとうございます。エフィも……流石にTSは勘弁して欲しいかな」

 『戦乙女ヴァルキュリア』は女性のみで構成されているクランと聞いている。


「女の子になったアズさん……いや、男の娘もありなのでは?」

「ん、それはそれで似合いそうなのがなんだか悔しい」

 エフィと眠茶ミンティーさんの声は聞こえていない。断じて聞こえていないことにする。


「それじゃあ、『フォルダンの街』に着いたらアズは一番に探索者シーカー登録だな」

 ケイの指差す先には眩しく輝く海岸と鮮やかな街並みが広がっていた。









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