ワールドエリアボス

第18話 ワールドエリアボス

「多い多い、情報が多すぎるよ」

 ワールドクエストにシークレットミッション、おまけに、ワールドエリアボス。アナウンスだけでお腹いっぱいになりそうだ。

「え、あ、今のってアズさんのせいですよ……ね?」

 俺と同じく呆然としていたエフィも我に返ったようだ。


「ああ、多分、いや間違いなくだけど。ところで、どれだけ聞こえてた?」

「ワールドクエストとワールドエリアボス? の二つですね。もしかして、アズさんは別なメッセージも聞こえてたんですか?!」


「最初に魔法を使おう。のシークレットクエストもクリアになった」

 まあ、ワールドクエストの進行理由で魔法行使もアナウンスされていたから誤差だろ誤差。


「あれ? このタイミングでのアナウンスってことは、これまでの火や水は魔法の行使に含まれて無かったてこと?」

「ん、やっぱりあれは手品だった」

 眠茶さんがしたり顔で頷いた。

 え、マジで手品だったとか……、いや、ちゃんと詠唱で発動していたからそんな事は無いはず……。思わず崩れ落ちそうになる。


「ア、アズさんのは今までの精霊魔法ではなく、自力の魔法ってことですよ! たぶん」

 言い切って欲しいとこだったが、俺のは『言霊ことだま』を使った単独での魔法行使ってことなんだろう。


「それより、ワールドクエストが進行したことで忙しくなる。それと、コレ」

 眠茶さんに骨付きの唐揚げのようなものを渡された。美味しそうな匂いがしている……。


「……何ですコレ?」

「ん、角兎のドロップアイテム……?」

 眠茶さんとの間に沈黙が流れる。


「あ、わかりました! アズさんの使った魔法って『揚げ足を取る』ですか?」

「えーと、そうだけど良く分かったね」

 呪文自体を聞き取ることはできなかったはず。


「やっぱり! だから、詠唱そのままの効果で角兎が足を取られて転んだんです。それで……、『揚げ足』だったからモモの唐揚げみたいになったんじゃないかと……」

「あー、確かに! って辻褄が合いそうなのが微妙に嫌だけど、理に適って……、うん、もうそれが正解ってことにしとこう」

 『言霊ことだま』のスキルによる魔法効果と考えれば、正しくその通りの効果が発揮していると言えよう。


「ん、これ、そのままでも結構美味しい。とりあえず、いっぱい狩ろう」

 齧りかけの唐揚げを手に眠茶さんの目が輝いていた。


 ◆ ◇ ◆



 練習がてらに角兎の乱獲を行い唐揚げを大量に手に入れて戻ると、クレンの町は騒然としていた。

 帽子屋と見紛う、いや、店番に兎獣人が座っているから帽子屋と言っても過言ではないクランハウスに戻ってきた。


兎兎ととねぇ!」

 眠茶さんがカウンターに座る兎獣人に飛びついた。


みんちゃんおかえりなさい。貴方達が噂のアズくんとエフィちゃんね、ぎんちゃんから話は聞いてるわ」

 兎獣人さんは片手で眠茶さんをいなしている。


ぎんちゃん?」

「ん、店長クラマスのこと」

「銀ちゃんは帽子屋シルバ、シルバーだから銀ちゃんよ。そして、私は三月みつき兎兎とと、ジャバウォックの副クランマスターよ。兎兎ととって呼んでくれればいいわ」


「あ、アズです。よろしくお願いします」

「『戦乙女ヴァルキュリア』のエフィです。今はアズさんとパーティを組んでます。よろしくお願いします」

 おっとりして見えるが、PVで大剣を振り回していた人だ。若干緊張しながら挨拶を交わす。


兎兎ととねぇ、ところで店長は?」

「銀ちゃんなら緊急のクラン会議に行ったわよ。さっきのワールドアナウンスの件でね。それで、アズくんたちに話を聞いといてって」

 どうやら、俺たちが関係していることはバレバレだったらしい。

 手招きされて奥の部屋へと移った。



 ◆ ◇ ◆



「つまり、アズくんが魔法を使ったことでワールドクエストは進行したと。それにシークレットミッションかぁ、まあ、このワールドクエストは魔法に関係してそうだしね」

「ところで、ワールドエリアボスってなんですかね?」

 エリアボスの上位っぽいし、おそらくワールドクエストにも関係しているだろうことは予想がつく。


「あ、それなら多分わかってるわよ。銀ちゃんがクラン会議に行ったのもそれが原因」


 どうやら、ここから西の海岸近くにワールドエリアボスが出現したのが確認され、その攻略方針を決める会議でもあったらしい。

 また、ワールドエリアボスは通常のエリアボスより広い領域の境、つまり、ルーダン魔王国との境界に関係すると睨んでいるとのことだ。


「ワールドエリアボス戦に挑むのは多分週末になると思うんだよね。とりあえずアズくんは強制参加になると思うし、それまでは戦闘経験を積んでもらうかな」

「ん、鍛える」

 エリアボス戦等は複数のパーティが連携して挑むレイド戦になるらしい。

 俺達はこのままパーティを組んで挑むことになる。


「あ、そう言えば、俺のリア友と合流する予定なんですけど大丈夫ですかね?」

 きょう、こっちではケイだったかと週末には合流しようと言っていたような気がする。


初心者ルーキーだとクレンの町に来るの自体が難しいんじゃないかな?」

「ケイ、あ、リア友はベータプレイヤーだから大丈夫だと思います。クランに掛け合うようなことも言ってましたし……」


「それなら問題ないんじゃないかな。それに、今、クレンの町を知ってて来るようなのは攻略組だけだしね。ケイって、アサくんのクランにもそんな名前のプレイヤーいたけどその人かなぁ?」

兎兎ととさん、アサくんのギルドってどこですか?」

 アサくんとは誰だよって、エフィも気になるようだ。


「えーと、『アーサーと愉快な仲間たち』?」

「ん、愉快なメンバーが多いギルド」

「ああ、あそこですか。って、アーサーでアサくんだったんですね」

 どうやら有名なクランだったらしい。今度、京に聞いてみることにしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る