第17話 魔法4
今日、木曜日の放課後はいつもの喫茶リンドウでバイトの日だ。
「火、水ときたら、次は風とかで『風が吹けば桶屋が儲かる』なんかはどうですか?」
エフィさん、
なお、『私はアズさんとよびますから、アズさんも春華と呼んでくださいね』とのことで名前呼びを押し切られた。
「『風が吹けば桶屋が儲かる』ってそれこそ何が起こるか分からなさそうで怖くない?」
「では、体にちなんで『揚げ足を取る』とかはどうですか? 攻撃魔法になりそうじゃないです?」
「アズ、ことわざか何かの勉強か? それにしても嬢ちゃんと仲良くなったようじゃないか」
店長がカップを拭く手を止めてニヤニヤとこっちを見ている。
「魔法使えるようになったんで使える詠唱探しですよ」
「なるほど、魔法の詠唱かぁ……って、え、何、魔法使えたってマジ?」
マスターはカップを落としかけていた。
「マジですよ。ショボいですけど」
「あれ、もしかしてクレンの町の
「やっぱりそんな扱いなんですね。実際、アズさんの魔法便利ですもんね」
ちゃんと魔法のハズなんだが傍目には手品系のスキルと思われているっぽい。
「で、何で魔法の詠唱でことわざを調べてるんだ?」
「それが、今使っている魔法の詠唱が『爪に火を点す』と『寝耳に水』なんですよ。同じ系統で発動する魔法が無いか試行錯誤してるんです」
「な、なるほど。精霊魔法の詠唱はそんな事もあるらしいから、あながち間違ってはいないかもな」
「そうなんですか?」
精霊魔法に関してはNPCにより少しだけ情報が出ているらしい。
「つまり、詠唱すると精霊のテンションが上がってノリノリになる……いや、マスター、俺たちを
「いくらなんでも騙されませんよ?」
「いや、ホントだからね。精霊魔法使いの
◆ ◇ ◆
「『風が吹けば桶屋が儲かる』!」
「『揚げ足を取る』!」
「うーん、何にも起きたようには思えませんね。アズさんは何か感じましたか?」
今日は拠点でエフィと魔法の検証をしている。と言っても、思いついた魔法になりそうなフレーズを唱えるだけの作業だ。
「何となくだけど、発動しそうな雰囲気がしなくもないような気がするフレーズもいくつかあるかのような……」
「それって、どっちなんですか?」
「『寿限無寿限無五劫のすりゅきれ』! うぐっ、マジ噛んだ」
「あぁっ」
エフィが口を押さえて横を向いた。
「ん? アズは『落語家』のスキルでも取った?」
ログインして来たらしい眠茶さんが現れた。
「いえいえ、取ってませんよ。ほら、呪文の検証です。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるって言うでしょう。そのうち発動するのがあるかもしれませんから」
「なるほど。それなら外で実際にモンスター相手に試す方が良い。そもそも、拠点とか
「へぇー、って魔法使えないのに何故分かるんですか?」
「ん、攻撃系スキルが発動しないのと、実際にわんこが試してた」
「アンメモはPvPとかありませんからね。安全第一です」
◆ ◇ ◆
「ん、この辺りのモンスターも大分弱くなった。アズ大好きな角兎もいるから思う存分試すと良い」
ちらほらとこちらを伺う角兎が見えるが、目が赤く血走っていてちょっと怖い。
「ちょっと好かれているようには見えないんですけど、まぁ、試してみますね」
手を前に出し、角兎を視界に捉える。
「『風が吹けば桶屋が儲かる』!」
「……」
「うんともすんともってやつですね。あ、アズさん、『うんともすんとも』って呪文っぽくないですか?」
沈黙が辛い……
『うんともすんとも』って確かまったく反応がないってことだったか。
「アズは他のスキルは使ってる? スキルの発動を
「連射系スキルを重ねると連射数が増えたりしますよ」
スキルを連鎖して使用することで派生スキルが生えやすくなるそうだ。
なお、スキルが生えるとは良く使用していたスキルに隣接する形で選択可能なスキルが表示されて有効化可能になることだ。
「それじゃあ、『
あ、なんだか、いけそうな予感がする。
『きゅっきゅっ!!』
角兎も何か感じたのか急にこっちに向かって駆け出してきた。
「『
『きゅーっ?!』
―― ズサァーッ
滑り込むように転んだ角兎が光の粒子となった。
「お、おぉっ! 出たー!!」
手から放出された魔力の感覚。見えはしないものの角兎に対して魔法が発動したのが分かった。
―― プレイヤーによる自力での魔法行使が確認されました。
これによりワールドクエスト『精霊樹の復活』が進行します。
―― シークレットミッション:最初に魔法を使おう。
ミッションをクリアしました。
―― ワールドエリアボスが出現しました。
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