魔法
第14話 魔法
指先に点る火、俺はその小さな火を呆然と見つめていた。
「火、火が点きましたよ! これ、これって魔法ですかね?」
指先の火はスウッと消えた。
「点いたな。いや、それより、今のは呪文か?」
「あ、やっぱり呪文にしてはカッコ悪いですよね」
「え? 格好悪いって、なんて言ってるか分からなかったですよ?」
再び呪文を唱えてみた。
「『
―― シュボッ!
火が点いた。
「ん、点いた……。何を言ってるかは分からなかった」
「え、アズさん、火が点きましたよ。魔法ですか? って、今の詠唱?はなんです?」
口から出たのは良く分からない音の羅列だった、と思う。二重音声のように、『爪に火を点す』と『ᛃ᛫ᛓᚩᚬᚳᚥᛂ』が聞こえた、いや、認識できた。
「点いた、やっぱり点きましたよね。これって、魔法、魔法ですよね! よし、よっしゃー! いや、魔法使えたよ、俺。ということは、この黒い栞に書いてあるのが魔法の呪文ってことになるんですけど、これ普通に『ᛃ᛫ᛓᚩᚬᚳᚥᛂ』って書いてあるだけなんですよね。それより、呪文は詠唱すれば発動するもので良かったんですね。あ、もしかして、エフィさんとかもこの呪文詠唱で魔法を……」
「アズさんストップ!」
エフィさんに頭をポフッと叩かれ止められた。
「あ、すまん、魔法が使えたことで興奮してた……」
思わず魔法の考察に入るところだった。
「アズ君が落ち着いたところで状況を整理しよう」
謎の栞に書かれた言葉『ᛃ᛫ᛓᚩᚬᚳᚥᛂ』は店長達三人には読めない。
俺には『つめにひをともす』と読めた。
俺が『爪に火を点す』と唱えた言葉は、三人には『ᛃ᛫ᛓᚩᚬᚳᚥᛂ』と良く分からない音の羅列に聞こえた。
そして、俺は魔法を発動できた。文字通り『爪に火を点す』だ。
「やっぱり、読めないな」
店長が栞をひっくり返したり透かしたりしている。
「あ、言語アシスト機能ってどうなってます?」
忘れていたが、そう言えば図書室で言語アシスト機能が開放されたんだった。
「ん? 言語アシスト機能って何?」
「隠し機能かわからないですけど、それがオンになっててこの国の文字を読めてるみたいなんです」
図書室の本は言語アシスト機能をオフにすると読めなくなった。
「はぁ?! ちょっと待て、これは何だよ。こんな機能あったのか……」
店長が大声を上げた。
「言語アシスト有りました? それで読めるんじゃありませんか?」
「切り替えはできたし、『ᛃ᛫ᛓᚩᚬᚳᚥᛂ』から変わるのも分かった。もっとも『ჶႣნႲႵႼႮჵ』と余計分からない文字になったがな……」
「あれ?」
どうやら三人の見え方は俺とは異なるらしい。
「しかし、言語アシストか……。ライブラリの連中に高くで売れるな」
店長が悪い顔をしてるのは見なかった事にしよう。
しばし皆で色々試してみた。
「で、結局のところ魔法っぽいのが使えたのはアズ君だけか。そうなると、その栞に何らかの効果があるか、アズ君のスキル構成とかに魔法関係が生えてないかとかか……」
「ん、残念。ボクも魔法使ってみたかった」
「そもそも、その栞に書いてあるらしい呪文が読めませんでしたし……。栞を持ったままでも効果なしでした」
「ともかく、この黒の栞は魔法もですが、ワールドクエストの鍵の可能性は高いですかね。すごい魔導具っぽいし」
魔法が使えるなんて、黒の栞様々だ。金の縁取りの栞をニコニコと眺める。
「ところで、その栞の詳細は鑑定したのかい?」
「あ……、そういえば、してません。ちょっと確認します……」
:――――――――――――――――:
名称:
説明:黒い栞の姿をしている本の精霊。
その力はほとんど失われている。
契約済み。
契約者:アズ
:――――――――――――――――:
「……?!」
なんだかとっても思っていたのと違った。すごい魔導具ではなく、精霊?!
「これは……、予想外だね。その栞、精霊なのか」
「
◆ ◇ ◆
「アズ君への情報料、分割払いとか後払いでも良い?」
「あ、全然構わないです。とりあえず、ちょっと魔法使えるようになりましたし」
疲れたような表情の店長がそんな相談をしてきたが、そもそも、図書館への紹介状を貰っていなかったら手に入らなかったものばかりだ。
「一応、今日聞いた情報のあれこれは、情報クラン『ジャバウォック』の方で預かる。あ、アズ君が個人的に友人とかに話す分は問題ないけど、なるべく内密にして貰えるとありがたい。というか、ほとんど表に出さないほうが良い情報ばっかりだったね」
「ん、ばれると全プレイヤーからアズがお尋ね者になる」
眠茶さんが怖いことを言い出した。
「ワールドクエストに言語アシスト、それに、プレイヤー初の魔法行使。確かにどれがバレてもアズさんが追われる見になりそうですね」
「ワールドクエストはこの後のクラン会議で情報を出す。言語アシストの件は検証クラン『ライブラリ』に渡してからだな。魔法は幸い効果はショボいから隠しとこう」
「わかりました。けど、ショボいって何ですかショボいって!」
「ん、とりあえず手品のスキルと言っとけば良い」
『中途半端な
ふと、そんなフレーズが浮かんだ。
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