第12話 最前線

 最前線。アンメモにおける最前線とは本来の意味の最前線であり付近のモンスターのレベルも高い。


「アンメモでは拠点となる村や街から離れるほど敵が強くなるの。それで、ここみたいに小さな村というか拠点を繋いで最前線までの道を造ってるわけ」

 エフィさんによるアンメモの解説を聞きながら拠点間を結んでいる道を辿っていた。

 昨晩は山を降りたところから最も近い村、という名の柵で囲われただけの野営地でログアウトしたのだ。


「ん、今現在の最前線があそこに見えてきた町だよ」

 拠点はコトの街から川沿いに5キロおきぐらいに作成されているらしい。


「しかし、柵で囲んだだけで拠点扱いって、ちょろいと言うか、がばがばと言うか」

「けど、拠点ないと敵が明らかに強いんですよね。ここも川向うには良く分からないレベルのが見えてますよ」

 エフィさんの指差す先には巨大な恐竜っぽいモンスターがゆっくりと群れをなして移動していた。

 とてもじゃないが挑もうといった気にもならないくらいのサイズの違いがある。


「ん、この拠点扱いの条件が判明するまでは大変だった。後、川とか越えると別エリアっぽくて、川越えはまだ出来てない」

 拠点を造って生存圏を広げていく方法が判明したのもそれほど前の事ではないらしい。ただし、柵で囲うだけの拠点であってもその構築には人手と資源がそれなりに必要で土木系の攻略クランもあるそうだ。


「思ったより賑わってませんか、この町?」

「初めて来ましたけど大きいですよね」


 攻略最前線の『クレンの町』は木の柵ではなく、石積みの外壁で囲われていた。

 なんでも、町になる条件に石塀があったりするそうだ。


「まずはウチの店長クラマスに会ってもらう。アズの持ってる情報はボクでは判断できない」

 ここに来るまでの間に大雑把な情報は伝えたのだが頭を抱えられてしまった。


「てんちょー、ただいま」

 案内された先は帽子屋だった……。

 

 ベレー帽にキャスケット、麦わら帽子もあるが、良く名前の分からない種類の帽子が所狭しと飾られていた。

「ジャバウォックのクラマスの二つ名は『帽子屋』だったけど、ホントに帽子屋なんだ……」

 エフィさんの呆然としたつぶやきが聞こえた。


「おや、おかえり。どうやら無事に合流できたみたいだね」

 奥から白スーツに白いシルクハットの若い男性が現れた。なお、マントは羽織っていない。


「ん、山に入ったところで丁度会えた」


「それは良かった。ようこそ、情報クラン『ジャバウォック』へ。僕はクランマスターの帽子屋シルバ、通称『帽子屋』だ。気軽に店長てんちょーと呼んでくれ」

 店長に手招きされ奥の部屋へと入る。


「二人とも適当に座って。ところで、アズ君は魔術師になりたいんだよね、ってことで、三角帽系統と山高帽、シルクハット系ではどちらが好み」


「……? 古風なのも良いですけど、スタイリッシュなシルクハット系は憧れますね」

「うんうん。中々良い趣味してるねー、じゃあ、コレなんか良さそうだから使ってくれ。プレゼントだ」


 良く分からないうちに、どこからか取り出したシンプルな黒一色のシルクハットを手渡される。店長のシルクハットより少し低めの高さで、ほっそりとしたシャープな印象のデザインだ。


「うぉっ、かっこいい。って、頂いても良いんですか?」


「もちろん。その黒のマントにも似合うと思うよ」

「ん、店長は作った帽子を配るのが趣味だから気にせず貰っておくと良い」

 人数分の飲み物を持った眠茶さんが戻ってきた。どうやら、帽子を配るのはいつものことらしい。


「いや、配るのが趣味って……初対面の人には挨拶代わりに渡してるけどさぁ。あ、エフィさんも気に入った帽子があったらあげるから後で選んでね」

「あ、はい、ありがとうございます」

 エフィさんはというと呆気にとられたように固まっていた。



 ◆ ◇ ◆



「さて、以前アズ君に提供して貰った現実リアルからの初期装備反映だけど、検証の結果、たしかにある程度の反映が可能なことがわかった」


 アンメモに近い形で存在する装備品等は特に反映されるとのことだ。つまり、魔術師見習いのマントも実際にどこかで使用されている可能性があると。


「もっとも、初回のアバター作成時のみの反映だけなので大々的には情報公開はしないことにした。ただし、この情報は現実世界リアルから仮想世界バーチャルへの持ち込みという大きな意味がある」

 なので、情報料は弾むよ。と言われたのだが、こっちとしても新たな情報と欲しい情報があるので相殺してもらうことにしよう。


「で、まだ教えて貰っていない新しい情報があるって聞いたんだけど?」

「ん、とびっきりの爆弾情報」

 眠茶さんが悪い顔をしている。どうやら店長にはまだ伝えてないっぽい。


 こちらを見つめる店長にうながされ、情報を出す。

「ワールドクエストのミッションの内容についてです」


「っ?! ワールドクエストっていうと、この前開始された『精霊樹の復活』のことで良いかい?」


「えぇ、それです。ミッションを開始したら、どうやらワールドクエストのミッションだったようで……」


「ブラボー! いや、素晴らしいね。この最前線で今一番ホットな話題はワールドクエストだよ。クエストは開始したものの何をすれば良いのかさっぱりだったんだ。情報料はいくらでもだすから詳しく話してくれないか?」

 立ち上がって小躍りしそうに拍手をしながら続きを促された。









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