最前線

第11話 初戦闘

「角兎は臆病なモンスターで、レベル1の時は様子を伺って逃げませんが、それより高いレベルになるとすぐに逃げ出すので、いかに逃さず素早く倒すかが重要なんです」


 そんなエフィさんの解説を聞きつつ角兎を殴り倒していたのは三十分程前の話だ。


「ねえエフィさん、モンスター引き連れて他のプレイヤーのところに行くMPKって、やっぱりアンメモでも駄目なやつだよね」

「そうですね、擦り付け行為は嫌われてますし、アンメモはデスペナが特に重いですから……」


 何故こんな会話をしているかというと、そう、絶賛大量の角兎に追われ撤退戦を余儀なくされているからだ。


「アズさん、レベル上げたって言ってましたよね?」

「コトの街に向かうには10レベルあれば良いって聞いたから10までは上げてある」

 ドゴッ! 飛び掛かってきた角兎を殴り飛ばしながら答える。角兎は飛ばされながら光の粒になって消えていった。


「モンスターの異常行動の話はそんなに聞いたことないですけど、やっぱり、レベルが10あるのに襲ってくるのはおかしいです。アズさん、何か変なアイテムとかもってません?」


 変なアイテムと言われても……


「……あっ……」


「あるんですね! 大人しく吐いてください。この際私との間に秘密は無しです!」


 変なアイテムではないと思うがコイツが原因なのは間違いないだろう。


:――――――――――――――――:

名称:うさぎのてぶくろ

説明:角兎の皮で作った手袋。

   肉はスタッフがおいしくいただきました。

   兎のヘイトおよび※※を集めやすくなる。

作成者:※※※※※

所有者固定:アズ

:――――――――――――――――:


「絶対それじゃないですか〜! ヘイトって言うか、怨嗟集めまくってますよ〜!」

 いつの間にか迷い混んでいた山の中にエフィの愚痴の混じった叫び声が響く。



―― ガサッガサッ


 前方のやぶをかき分けて何者かが現れた。


「ん、うるさいと来てみたら、もしかしてピンチ? 助ける?」

「お願いします!」「頼む!」

 少し気怠そうなプレイヤーの声に俺達は是非もなく助けを求める。


「ん、任せて」

 飛び出して来たプレイヤーの周りで角兎の首が飛んだ。


『きゅっ、きゅきゅっ……』

『きゅーっ、きゅきゅきゅー』


 追いかけて来ていた角兎達の足並みが乱れる。


「殲滅する。そっちに抜けた兎は任せた」


 助けに入ってくれたプレイヤー ――茶髪でショートボブの小柄な少女だった―― は、目にも止まらぬ素早さで縦横無尽に角兎の首を切り飛ばしていく。


「つえぇー」

 俺が一匹倒す間に五、六匹は光となって消えている。なお、エフィさんも武器をショートソードに持ち替えて二、三匹づつ倒していた。

 もしかしなくても俺が一番弱そうだ。


「せいやっ!」

 気合を入れて殴ると角兎は一撃で光の粒になった。

 怯え戸惑う角兎たちはやはり最弱のモンスターであり、数が多いだけで倒すのに苦労はしない。

 とはいえ、近くの角兎はやはり俺の方へと向かってくる。距離のある角兎は逃げ出し始めているが、次々とエフィさんの矢に射抜かれていた。



「えーと、おかげで助かりました」

 程なくして辺りの角兎は一掃された。もっとも、全部俺たちが引き連れてきた角兎ではあったが……


「ん、問題ない。それに……、アズには会いに行くつもりだった」


「あれ? 俺、名乗りました?」


「エフィがそう呼んでた。それに、初期装備ではない魔術師風のマントと魔法陣の描かれた手袋。イルダたちに聞いてた通り」

 

「で、そっちが森妖精エルフスキーのエフィで間違いない?」

 問いかける少女は俺だけではなくエフィさんの事も知ってる風だ。


「そうですけど……、アズさんはともかく、どうして私の事まで知ってるんですか?」


「そういえば自己紹介もまだだった。ボクは情報クラン『ジャバウォック』の眠茶ミンティ。よろしくね」

 気怠そうに微笑むボクっはジャバウォックの関係者だった。


「あぁ、ジャバウォックの眠茶ミンティさんでしたか。だけど、なんで私のこと……」

「『戦乙女』の団長が『ウチの森妖精エルフスキー彼氏オトコに会いに王都に行ったみたいなんで見かけたらヨロシク』って……」


「はぁっ?! あんの団長クソマスは、なに人の個人情報プライベートバラ撒いてるんですか……。それに、彼氏オトコって、え、彼氏オトコ……はわわわっ……」

 なにやらエフィさんが百面相をしているが眠茶ミンティさんを知ってはいたっぽい?


「それで、俺たちとしては非常に助かったんですが、眠茶ミンティさんはどうしてこんな山の中に?」

 俺たちは角兎たちに追い立てられていたから仕方が無いとはいえ、かなりの距離を逃げてきた自覚はある。ここらへんは獣道っぽくもあるがプレイヤーが探索するような場所ではないだろう。


「ん、それはどちらかと言うとボクのセリフ。ここは王都から来るような場所じゃない。初心者ルーキーのフィールドではなく、攻略組の最前線になる」


「あの、私達は王都の北門から来たんですけど、もしかして、西の攻略拠点側だったりします?」

「そう。ボクはマップ埋めと近道探しを兼ねて王都に向かうとこだった。ボクもエフィたちも運が良かった」


 どうやら眠茶さんは俺達に合流しようと王都に向かうところだったらしい。


「とりあえず、こんな山の中だとログアウトもできない。西の拠点の方に案内するけど良いよね?」

「是非! 流石に王都に戻れる気はしません」

「私もお願いします。ウチの団長クラマスも居るんですよね。一発撃ち込んどきます」


 エフィさんの不穏な発言をスルーしつつ三人で山を下った。


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