王立図書館
第6話 王立図書館
ログアウトするために寝たはずが
MR仕様の視界の端に脈拍などのバイタリティのモニターと共に時計が表示されていた。
「やべっ、もうこんな時間か。スイが返ってくる前に晩ごはんの用意しないと」
外したヘッドセットをベッド脇に置き、慌ててキッチンに向かう。
両親共に帰宅が遅いため、俺かスイのどちらかが晩ごはんを用意することになっている。この週末はバイトを入れていない俺が当番だ。
◆ ◇ ◆
「げっ」
テーブルの上に並べたピーマンの肉詰めを見るなりスイのやつが嫌そうな声を上げた。
「『げっ』とは何だよ、『げっ』とは。嫌なら食べなくていいぞ。てか、お前、まだピーマン苦手なのか?」
「ちょっと苦手なだけで食べられるよ。それより、おにい? なんでヘッドセットつけてるの?」
ヘッドセットを装着したまま晩ごはんの準備をしていた俺を見て不思議そうにしている。
「ああ、このヘッドセット、実はMRグラス仕様でさ、料理しながらレシピ見るのにちょうど良かったんだよ」
現在のところアンメモ専用であるヘッドセットだが、ネットの閲覧等は普通にできた。また、連携するとヘッドセットを被ったままでパソコンやスマホを使用するほとんどのことができるようだ。
便利すぎたので外すのを忘れていたのは秘密だ。
「ま、いっか。ところで、アンメモやってだんでしょ。どうだった? おにいの好きな魔法、遂に使えた?」
興味津々と言わんばかりの顔でせまってくる。受験のために控えているだけでスイは結構なゲーマーだ。
「魔法はまだ使えない。ってか、アンメモでは魔法がまだ使えないみたいなんだよなぁ」
「え、マジ? PV見たけどバリバリ魔法戦やってたよ?」
食べる手が止まった。あのPV見たら確かにそう思うよな……うん、PV詐欺と言われるはずだ。
「PV詐欺はともかく、ゲーム自体はむっちゃリアルだな。その辺は謳い文句に偽りなしと言うか、ホントにバーチャルかと疑うレベル」
フルダイブの感覚は体験してもらうしかない。
「それにな……五感があるだけじゃなくて、第六感、じゃないな、何となく魔力を感じるんだよね」
「はぁ? ちょっとはマシになったかと思ったけど、おにいはやっぱり痛い子のままだった……。これさえなければ悪くはないのに……」
大仰にため息をついて肩を落とす。
「え、信じてない? マジだってば、それにドサクサに紛れてかなり俺のことディスってない?!」
実際にアンメモの中では体内に何か別の力が働いている感覚があった。それに空気が違うというか、場所によって何か違うと思える場所がいくつかあったのだ。
これは多分魔力の濃さだと思っているんだが、いくらスイに説明しても生暖かい目で見られるだけだった……
◆ ◇ ◆
「おい、
晩ごはんを食べ終わった俺はアンメモを勧めてくれた悪友に通話をしていた。
「その様子だとアズも無事にアンメモにログインできたみたいだね。どうだい、アンメモは楽しいだろう?」
「ああ、ほんとアンメモはリアルだよな。まさか味覚もあるとは思わなかったよ。って、そうじゃない、お前、魔法が使えないこと黙ってただろう?!」
通話越しでも京のニヤニヤ顔が想像できて癪に障る。
「使えないだけだからな。魔法がないわけじゃないし、それに、使えないって知ってたら始めるのがもっと遅くなったかもしれないだろ?」
確信犯ではあるが、実際その通りだからたちが悪い。
「ところで、京はいつ頃合流できそうなんだ?」
「それなんだが、ウチのクランの方でも新人の勧誘やら案内やらで一週間程は手が離せそうにない。それまでは好きにしてくれていいよ。その方がアズも楽だろう?」
俺は新しいゲームをする時は攻略情報をあまり入れずに楽しむ方なので、その方が助かる。
「オーケー、それじゃあ俺は図書館にでも籠もって魔法について調べてみるよ」
「は?! ちょっとまて、図書館って王立図書館か? 王都ラナの」
何故か慌てたような声が聞こえた。
「そうだが、他に図書館ってあるのか? あったら教えといてくれ」
「いやいや、あの王立図書館は紹介状がないと入れないって話だぞ。一見さんお断りなのに、どこで図書館のことを聞いたんだよ」
やっぱり紹介状がいるのか。ちらりと見た限り警備も厳重そうだったからな。
「やっぱり紹介状いるんだな。まあ、紹介状は貰ったから大丈夫だ」
「はぁ?! 紹介状貰ったって……お前、初日から何やったんだよ」
呆れる京に、この半日の話をする。
「ジャバウォックの双子かぁ……、あいつらなら確かに紹介状ぐらいは手に入れられそうだな。しかし、初日から濃いのと絡んでるとは」
「あの双子ってそんなに有名なのか?」
「攻略組とかなら知らない奴はいないかな。あいつらは情報クラン『ジャバウォック』のメンバーで、MMO、特にアンメモでは情報はかなり重要視されてる。その伝手ができたのは良かったな」
伝手ができたのは良いとして、クランのメンバーはかなり曲者揃いらしい。
そして、京の入っているクランは教えてもらえないまま、一週間後の合流を約束して通話を終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます