第5話 王都ラナ2
「つまり、
イルダさんが頭を抱えてテーブルに突っ伏しそうになりながらも、全く信用してないようなジト目でこちらを見ている。
「主張も何も事実その通りで、むしろ、こっちとしては今まで同じようにリアルの服装を持ち込んだやつがいなかったのが驚きだよ」
「それなら私もお気に入りの服装でアバター作成に挑むべきだったかもしれません」
「逆に考えると初期装備がジャージじゃなくても良かったともいえるね」
「ちょっと兄様それはプライバシーの侵害です。もっとも、ベータの時からそんな機能があったかはわかりませんけど」
わたわたしたイルダさんが机の下で蹴りを入れているらしく、ルディさんはちょっと眉をしかめながらも優雅にティーカップを傾けていた。
「しかし、広場に降り立った初心者はアズ君以外初期装備だったから、多分別な条件もあるんだと思うよ。そういえば、その装備は『鑑定』してみたかい?」
ルディさんの目は机の上に置かれた俺の手、いや、手袋に注がれている。
「『鑑定』? いや、『鑑定』スキルは取ってません。それに……最初のスキル選択にはありませんでしたよね?」
『鑑定』なんてお約束のスキルは取れるのなら取っている。少なくとも初期選択の時には取れなかったのは間違いない。
「ああ、アンメモでの『鑑定』は基本機能だよ。鑑定対象をじっと見つめることで発動するんだ。ただ、他人の所有物に関しては鑑定できないから、その手袋とかはアズ君に鑑定してもらわないとわからない」
どうりで『鑑定』スキルがなかったはずだ。
「それじゃあ、『鑑定』っと」
必要ないとわかってはいても思わずスキル名を口にしてしまった。
:――――――――――――――――:
名称:うさぎのてぶくろ
説明:角兎の皮で作った手袋。
肉はスタッフがおいしくいただきました。
兎のヘイトおよび※※を集めやすくなる。
作成者:※※※※※
所有者固定:アズ
:――――――――――――――――:
:――――――――――――――――:
名称:魔術師見習いのマント
説明:何の変哲もない魔術師見習いのマント
:――――――――――――――――:
「おおっ!」
眼の前に半透明のパネルが浮かぶ。
「マントはともかく、手袋はレアアイテムっぽいね」
アイテムの詳細を聞いたルディさんが考え込んでいる。
「作成者情報やフレーバーテキストの一部がマスクされて読めないとか、所有者固定装備とかって情報量多すぎ」
イルダさんが呆れたような声を上げるが俺のせいではないと思う。
「
「そうですね、検証も難しいですし……」
「どちらにせよ情報の価値としてはかなり高いのは間違いない。とりあえず、情報の対価と一部として必要な
そう言ってパネルを操作したルディさんからのトレード画面が開く。
「これは前金の一部だと思って受け取ってくれ。初心者お役立ちグッズの詰め合わせのようなものだ」
「多くないですか?」
初心者が手に入れるにはちょっと過剰なMPとアイテムが渡された。
「そんなことはない。このアンメモ世界において情報の価値は高いんだよ。残りの情報料についても価格が決まったら連絡するね」
連絡用も兼ねて二人とフレンドコードを交換する。フレンド登録をしておくとメールやチャットができるようになるらしい。
なお、アンメモのフレンド登録は対面でないとできないとのこと。
つまり、
「ところで、お二人のクランって情報クランなんですよね、情報を買うこともできます?」
折角なので目的のためにサクサクっと情報を聞いておこう。
「もっちろん! 何が聞きたい? 後払いの中から相殺するしなんでも聞いて」
イルダさんが興味津津な模様で身を乗り出してきた。
「実は俺、魔法が使いたくてアンメモ始めたんですよね、魔法ってどこかで習えたり、スキルを買えたりします?」
魔法 is ロマン。魔法を使えるようになると思うとウキウキして顔が緩んでるのが自分でもわかる。
「……」「魔法……」
ルディさんとイルダさんの顔が曇る。ちょっと眉根を寄せて考え込む姿は流石双子、そっくりだ。
「えっと、魔法の情報はとっても貴重だったりとかします? 追加で情報料がいるとかなら、分割で良ければ払います……よ?」
魔法に関しての情報を得るためなら何でもする。靴を舐めろというのなら喜んで舐めよう。
「いえ、貴重というか何というか……アズ君は魔法を使いたくてこのアンメモを始めたってことで良いのよね」
イルダさんが非常に言葉を選ぶような感じで確認してきた。
「はい! 俺、昔っから魔法に憧れてて、そしたら友人が、あ、そいつはベータテスターだったんですけど、アンメモのPVを見せてくれたんです。で、俺もあんな風に魔法を使いたくて始めたんです」
「なるほど、アズ君はあのPV詐欺なムービーに引っかかったというわけか」
「……PV詐欺?!」
「兄様、言葉は選んでください。それに、あのムービー自体は詐欺ではないですよ」
「えーっと、PV詐欺ってのは、もしかして魔法使えなかったり……?」
「単刀直入にいうと、今現在魔法を使えるプレイヤーはいません。いや、近い事ができるプレイヤー、あれ、一応プレイヤーよね?」
「信じがたいところではあるが、PVにも出ていた、ぬいぐるみのような犬獣人はプレイヤーだね。ただ、あれはイレギュラー枠と考えたほうが良いかな」
「まあ、そのわんこを除いて魔法を使えたというプレイヤーは確認されてないわね」
「つまり、アンメモで魔法は使えないってこと? えーと、NPCとかから習うとかは……」
「ここらのNPCで魔法を使えるのはいないかな。そのわんこの地域には魔法が使える冒険者もいたらしいけど……」
「そのわんこ?さんのとこに弟子入りとかは?」
「んー、公式イベントでの特殊エリアでなら会えるかもしれないけど、こことは違う大陸?島?に住んでるらしいんだよね」
どうやら魔法習得への道は中々に厳しいようだ。
「けど、ゲームシステム上魔法がないってわけじゃないんですよね。それなら頑張って魔法を使えるようになってみせます!」
あれだけPVでも魔法をアピールしているんだ使えないってことはないだろう。むしろ、これは運営からの挑戦状に違いない。
「おっと、中々決心は固いみたいだね。それなら、先ずは図書館に行くと良いかもしれないね」
「図書館?」
「この王都には王立図書館があるのよ。結構膨大な数の本があって、信じられないことに全部読める、いや、たぶん読めるっぽいのよ」
王立図書館は王家主導の元、ありとあらゆる書物や資料を集めて収納した施設らしく、一般に公開されるようになったのはつい最近のことらしい。
要は正式サービス開始に伴ったアップデートで実装されたってことだ。
「私達も図書館の調査をしようと思ってたんだけど、アズ君が情報を提供してくれるってことなら紹介状をあげるわ」
「僕達のクランも人手不足でね。バイトだと思って調査してもらえるとこっちも助かるよ」
そう言って図書館への紹介状をもらい、二人と別れた。
◆ ◇ ◆
「しっかし魔法が使えないなんてな。
次に悪友にあったらどうとっちめてやろうかと考えながら図書館近くの宿に入った。
今日のところはこのままログアウトする予定だが、明日は朝一から図書館に行くつもりだ。
思った以上にふかふかと寝心地のよいベッドに横になりログアウトを行った――――
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