第7話 王立図書館2

―― ラナ王立図書館

   廃家となった貴族の屋敷を利用して設立された王立の図書館。

   元々王家が管理していた書物、資料に加え、各貴族家から寄贈、貸与された書物等も収納されている。

   一般への公開はされておらず、入場には何らかの紹介を必要とする。


「失礼ですが、どなたからの紹介状などお持ちでしょうか?」

 王立図書館に入った俺を待っていたのは森精霊エルフの司書の女性だった。

 金髪の髪をまとめ上げたことにより、長い耳が目立っている。アンメモでは見たことのない眼鏡美人だ。


「この眼鏡が珍しいですか? これは鑑定の機能を持つ魔導具なんですよ」

 双子から貰った紹介状を渡すと、眼鏡を押さえてじっと紹介状を見つめながら司書さんが微笑えむ。


「魔導具ってことは、その眼鏡は魔法がかかってるんですか? 俺、魔法を使いたくってここに調べに来たんですけど、魔法関連の本はありますか?」


「この国で扱っている魔導具はダンジョンでのドロップアイテムがほとんどですね。ラナ王国以前には魔道具を作れる技術者もいたという記述は残ってはいますが既に失われた技術ですね。この入館証もそんな古代の魔道具で作ったものですよ」

 勢いにちょっとばかり引き気味の司書さんから渡された入館証、カード型の魔道具に血を一滴垂らす。


「入館証をかざすことでそのゲートを通ることができます。なお、乗り越えようとしても結界に阻まれますので気をつけてくださいね」

 魔法はないのに限定的ではあるが魔法的な仕組みは残っている。どうにもチグハグさが拭いきれない。


「それから、魔法関連の本はありませんが、王国の歴史関連の本を探せば何が記述が見つかるかもしれません。ちなみに、歴史は入って右奥の部屋となります」

 やはり、魔法関連の本はないらしい。とりあえずはこの国の歴史からあたるとするか。


「ありがどうございます。それでは歴史関連から行ってみますね」

 ゲートを越え、広いロビーを抜けて右奥の部屋を目指す。

 元が貴族の屋敷というだけあって豪勢で広い廊下だ。ただし、その廊下の両脇にも本棚がぎっしりと並べられている。


―― 『貴族としての嗜み』

   『王国貴族の在り方』

   ……

   『休暇におすすめ地方の歩き方』

   ……


 広い。長々と続く廊下を歩き奥まった一室についた。


―― ラナ王国歴史資料室


 そう書かれた部屋にはこれまたぎっしりと本や資料が詰まっていた。

 結局、午前中をフルに使って大量の本に目を通したが普段本を読むときよりも更に疲れた気がする。


「……ないな」


 魔法関連の資料がないのはまだ分かる。しかし、このラナ王国が建国された千年程前の資料が一切ない。

 資料だけではなく中身を読んでも建国前の情報が全くない。


「いや、ゲームだから書いてなくてもおかしくはないんだが、むしろ、これだけの本があってすべて中身が読めるほうがおかしい気がするな」


 手に持っている分厚いハードカバーの豪勢な本を眺めた。


『ラナ王国建国史』


 そもそも何も考えずに読んでたけど、これだけこだわってるなら独自の言語ぐらいあってもよさそうなもんだ。


―― 言語アシスト機能をオフにしますか?


「はぁっ?!」

 言語アシスト機能って何だよ。もしかして、勝手に翻訳してた?


「と、とりあえず、オフで」


―― 言語アシスト機能をオフにします。

   以降、メニューから切り替えが可能となります。


『ჼႤრႠჼჾჳႠႷჷზ』


 手に持っていた豪勢な本にはそう書かれている。


「いや、全く読めないんだが?」

 そこには全く見たことのない文字かどうかもわからない模様が描かれていた。


「これは……隠し機能かな。この情報って流すべきか悩むが、とりあえずは秘匿しとくか」

 メニューをいじって言語アシスト機能をオンに戻す。


「ん?」

 変更した際に少し違和感を感じた。

 言語アシスト機能のオンとオフを切り替えながら本を開いて見る。


「なるほど、言語アシスト機能がオンだと若干の負荷があるっぽいな」

 道理で本を読んだ時にいつもより疲れた気がしたはずだ。

 とは言っても言語アシストをオフにしたまま本が読める訳では無い。


「おっと、そろそろ昼ごはんにしないとな」

 凝り固まった体をほぐすべく、大きく伸びをした。


 ふと見上げた視線の先にチラチラ揺れる紐が見えた。


しおりか?」

 本棚の上段に挟まっていたそれは黒い紐の付いた皮製のしおりだった。

 特に何かの本に挟まっていたわけではないその栞は誰かの忘れ物だろうか。

 黒い革に金の縁取りがされたいかにも高級そうな栞だ。裏返すと銀の文字で何かが書かれていた。


『ᚣᛥᚢᚨᚷᛇᚨᚠᛦᛘᚳᚨᛠᛜᚱᛤ』


「オーケー、よくわかった。その通りだ。アシストは常にオンにしろってことか」

 謎言語で書かれていたら読めないし話にならないらしい。


 オフのままだったアシストをオンに戻す……


『――――』


「何も書かれていないんだが?」

 裏にも表にも何も書かれていない……


 いや、さっきは確かに書かれていたよなぁ、念のためアシストをオフにして見直す。

「やっぱ書かれてないな。見間違いだったか……。とりあえず、忘れ物っぽいので司書さんに預けてログアウトするか」


 アンメモでは安全地帯セーフティゾーンであればログアウトは可能だが、宿屋などのプライベートゾーンでなければ次回ログイン時の場所は保証されない。

 もっとも、宿屋であっても宿泊料金を充分に払っていない場合は追い出されてリスポーン地点からのログインとなる。



 ◆ ◇ ◆



「確かに預かりました。しかし、あの部屋の本を読みに行っている人は見かけた事がありませんのでなにかの本に最初から挟まっていたのかもしれませんね」


 見つけた栞を司書さんに預けてすぐ近くの宿屋に戻る。京との約束の一週間後までは他に行く気がないため、宿代は既に前払い済みだ。

 取り替えられてピンと張られたシーツの上に転がってログアウトを行った。
















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