幼馴染のパソコンを修理したら俺へのラブレターが出てきたんだが、書かれていた内容が激重だった件について

久野真一

幼馴染のパソコンを修理したら俺へのラブレターが出てきたんだが、書かれていた内容が激重だった件について

万里ばんり……どう?りーちゃんの調子は」


 俺、彼方万里かなたばんりが見つめるのは幼馴染の恩田真子おんだまこの個室に置かれた1台のタワー型PC。


 後ろから固唾をのんで見つめるのは真子その人だ。灰色のパーカーに下は膝までのスカートとラフな格好だけど、スリムな体格にちっちゃい背丈もあって妙に可愛らしい。


「そのさ。未だにPCにりーちゃんってのは……」


 恥ずかしくなってしまう。このタワー型PC、小学生の頃に真子が買ってもらったメーカー製PCを俺が魔改造し続けた代物なのだが、真子が俺の名前から「りーちゃん」という名前をつけたのだ。


 当時、軽い言い合いになって


 「それだと、僕と区別つかないでしょ」

 「じゃあ、これからはりーちゃんのことは万里って呼ぶから」

 「それなら……」


 ということで決着がついたのだけど、それ以来、パソコンを「りーちゃん」と呼んでいるのは、もちろん大事にしてくれる証。筐体は当時のものそのままで、傷ひとつないのも大切に扱っている証だ。


 でも、本人がいる前で言うのはやっぱり勘弁して欲しい。


「万里もあのとき納得したでしょ。それよりどうなの?」


 元々、大晦日の夜にわざわざ幼馴染である真子の家に呼び出されたのは、彼女のPCが故障したという連絡を受けたから。Windowsの起動画面まで行かずブルスク連発で困っているというのだ。


「復旧はできたけど、不良セクタが多過ぎてそのまま使うのは危なっかしいな」


 真子に簡単に今の状態を説明する。


「よくわからないんだけど……」


 あれ・・以来、俺のプログラミング能力やPCスキルに追いつこうと頑張っている彼女だけど、アプリは使い慣れてても内部の仕組みに疎いのは仕方ない。


「応急措置はできたけど、部品交換しないとデータ壊れそうで危ないってこと」

「交換は……万里ならできるわよね?」

「そりゃね」


 このくらいなら俺でなくても自作PCに慣れてる人なら簡単だろう。


「部品、どのくらいかかるの?今からお小遣い引き出してこないといけないかしら」


 普段遣いのPCとはいえ、やけに必死だな。どうしたんだろう。


「なんか急ぎでPC使わないといけない用事でもあるのか?」


 大晦日だし、元旦にLINEやDiscordでメッセージを送るとかだろうか。

 スマホでもできるけど、PCを使った方が早いくらいには真子もPCの操作に慣れているし、タッチタイピングだって出来る。


「うん……どうしても」


 必死そうな表情を見て、ならいいかと思う。


「ちょっと待ってろ。家から予備のSSD取ってくるから」

「いいの?そこそこするんじゃないの?」

「どうせ普段は使ってないから。気にするな」


 実は嘘だ。買ったはいいものの、まだあまり使ってないSSDがある。

 それを引っこ抜いて彼女のPCに差し替えるつもりだ。

 言ってしまったら彼女は気にするに決まってるから言えないけど。


「お言葉に甘えるわね。本当に助かるわ。いつもありがとう。


 深々とお辞儀をしながら悪戯めいた笑みでのお礼。

 PCで困ってる人なら誰でも助けるけど、彼女の場合は特別枠。

 この笑顔のお礼を見たくてやっている部分だって多い。 


「お礼はいいけど、りーちゃんは恥ずかしいって。PCだけにしといてくれ」

「もう、照れちゃって。万里は可愛いわよね」

「とにかく!部品取ってくるから」

「それと……」

「それと?」

「作業は少し時間……1時間くらいかかるから、居間で待っててくれ」

「はーい。作業風景はちょっと見ていたいけど」

「部品交換は集中力が必要なんだよ。悪いな」

「わかってる。じゃあ、頑張ってね。万里。ファイト!」


 背後で応援する真子を後ろ目に見つつ、恩田家を出る。

 自室に戻ってSSDと部品数点を取ってさっさと戻ってくる。


 真子の部屋に入って、さっさと部品交換だ。


「パーツ交換が楽しいんだから、俺も大概だよなあ」


 小学校の頃に興味を持って始めた自作PC。

 中のパーツを交換して、新しく生まれ変わる瞬間が楽しくて仕方ない。

 初めて真子のPCトラブルを助けたときも、作業してる瞬間は楽しかった。


 SSDを交換するだけだと芸が無い。

 だから、新しいCPUに追加で挿せるメモリも持ってきてある。

 作業を済ませた後は、応急措置をしたSSDから新品のSSDへディスククローン。

 諸々込みで1時間程度の作業。


「よし……無事、起動!うんうん、さすが俺」


 PCを自作できる高校生なんてのも珍しくはない。

 でもソフト面の復旧まで含めてサクッとできるのはちょっとした自慢だ。


 作業の出来に満足した俺だけど、デスクトップを見やると、いくつかファイルがあった。


 一つはToDoList.jsというJavaScriptのプログラムだ。

 タスクリスト管理アプリを作ろうしたんだろう。

 他にもCalendar.js……カレンダーを表示するんだろう。

 以来、真子にはJavaScriptのプログラムを毎週教えているけど、なかなかに頑張っているようだ。


(教える方としても嬉しいもんだな)


 デスクトップに置くのはまだまだ初心者だけど、最初は自信をつけるのが大事だ。

 弟子の成長を見て心の中が少し暖かくなったところで、変なファイルを見つけた。


 文書ファイル?真子はファイルの整理が適当だし、不思議じゃないけど。


「万里への恋文.docx……って」


 予想外のファイル名に思わず声をあげてしまった。


(真子が、俺のことを好き!?)


 幼馴染の真子とは幼稚園の頃から一緒に育った、兄妹のような仲だ。

 家が近所でお互いの家を行き来する間柄でもる。


(昔から、なんかあるとハグしてくる奴だったけども……)


 俺はてっきり親愛の表現だと受け止めていた。

 でも……実はそうじゃなかった?

 今までの思い出が瞬く間に頭の中を駆け巡っていく。


 中学を卒業した時。高校に入学したとき。文化祭が終わったとき。

 そして、で優勝したとき。


 感触を思い出して、気がつくと身体が熱を持っていた。


(ラブレター読んでみたい)


 好きな女の子からのラブレターだぞ!?

 どういう想いが綴られているのか気になる。

 でも、真子は俺のことを信頼してくれている。

 パスワードもかけずにこうしてPCを預けてくれてるわけだし……。


「やっぱやめとこう」

「やめとこうって、何が?」


 後ろから聞き慣れた声。


「ああ、いや。なんでもない」


 慌てて振り向くと、片想いの幼馴染その人がいた。


「作業は終わったの?」

「悪い悪い。待たせたけど、無事終わったぞ。触ってみてくれ」

「なんだか動作がすっごく軽くなったけど。SSDを交換したせい?」


 不思議そうな表情をして操作を続ける彼女を見て俺はといえばニヤリ。


「実はな。CPUもRyzen 7 5700Gに換装したし、メモリも32GBだ」

「ええ?CPUの型番はよくわからないけど……結構したんじゃないの?」


 前に譲ったCPUはRyzen 5 3400G。メモリも余ってた8GB。結構性能差がある。

 真子はPCでゲームもするし、色々なアプリを同時に立ち上げてることもある。

 今のCPUとメモリだと遅く感じるかもしれない。

 せっかくだから、真子にはPCを快適に使って欲しい。


 お小遣い足りるかしら、考え始める幼馴染を前に、


「CPUもメモリもお下がりだから気にするなって」

「前のときもそう言ってたけど、ほんと?」

「ほんと。今俺が使ってるのは新しい世代のCPU。持て余してたんだよ」

「本当に無理してない?」


 じーっと目を細めて見つめてくる。

 俺が真子の前で格好つけなところがあるから、気にしてるんだろう。


「本当。AI関係のプログラミングするには高性能なパーツが必要なんだって」


 これは事実だ。特にメモリ容量とグラフィックボードの性能は全然足りない。

 CPUだってコア数が多くて速いに越したことはない。


「そうだったわね。高校生プログラミングコンテスト優勝者さん?」


 ことあるごとに真子のやつはこのことを持ち出してくる。

 元々、趣味で作っていたAIを活用した障害者支援ソフトを応募しただけだ。

 それが偶然にも優勝できたのだ。

 最近は若き優秀なプログラマーとしてちょっとした有名人だ。

 悪い気はしないのだけど、最近は嬉しさより恥ずかしさが上回る。


「趣味でやってたことが、たまたま評価されただけ」


 ただでさえラブレターのファイルで心臓がバクバクなのだ。

 褒められると恥ずかしいったらありゃしない。

 スマートウォッチの心拍数を見れば120。ドキドキし過ぎだろ。


「もっと誇っていいのよ?ネット上のインタビューでもやたら謙遜してたし」


 自信持ちなさい、と激励してくれる真子は本当にいい奴だ。 


「若さ補正で騒がれてるだけ。俺より優秀な奴なんてゴロゴロしてる」


 本音だ。

 俺が作ったソフトも優秀なエンジニアが作ってくれた部品をラップしただけ。


「自分を褒めるのが下手なんだから。その分、私が褒めてあげないとね」


 背伸びして、俺の髪を優しく撫でてくれる。


「いい子、いい子」


 真子との関係はいつもこうだった。

 いつまでもこうしていたくなる、毛布で包まれるような暖かさ。

 

「はあ……好きにしてくれ」

「そうそう。素直が一番よ」


 ひとしきり撫でて満足したらしい。

 恩田家で大晦日の夕食をご馳走になることになった。


「万里君はほんと昔から凄いわよねえ。うちの会社も頼りっぱなしだし」


 年越しそばをすすりながら、満足そうに言うおばさん。

 彼女の家はオフィス用品を販売する会社「恩田工業株式会社」を経営している。

 家族経営の中小企業だから、PCの相談を受けたことも一度や二度じゃない。


「大学を卒業したらウチに就職しないか?」


 それまで黙っていたおじさんが大真面目な顔をしてそんな話を切り出す。


「おじさんの申し出は嬉しいですけど……検討させてもらいます」

「まだ私達、高校一年よ?そんなこと言われても困るわよ。ね、万里?」


 助け舟をくれる幼馴染。助かる。


「就活の時期になって覚えてたら改めて誘ってください」


 そう返しつつもお誘いを少し魅力的に感じてしまった。

 婿入りという形とはいえ、ずっと彼女と一緒にいられるのだ。


(先走り過ぎだろ。俺)


 ラブレターを見ただけで、思考がどんどん暴走している。

 お互いまだ恋人ですらないのに。

 婿入りの前に真子の気持ちを確認しないと。


 幸い今日は大晦日。例年通り、深夜の初詣に行く約束をしている。

 告白するならそのタイミングがベストだろう。


 なんて思っていたのだが、甘かった。

 彼女がどれだけ俺の事を想ってくれていたか、全然わかっていなかった。


◇◇◇◇


「万里。これ読んで欲しいの」


 復旧したPCで作業をしていた真子。

 それを尻目に座布団に座ってスマホをポチポチしていた俺。


 真剣な表情をした彼女が対面に座ったかと思うと、

 ずいっと赤色の封筒を差し出してきたのだ。


「わかった。今読んでいいのか?」

「うん。途中の反応が気になるし……」

「真子がいいなら」


 唐突にさっき見たラブレターの記憶が重なる。

 そうか。真子の奴、妙に慌ててたけど……。


 丁寧に封筒を開けると、淡い桃色をした一通の便箋。

 

『親愛なる万里ばんりへ』


 手紙はそんな書き出しで始まっていた。

 対面の真子を見ると、恥ずかしいのか目を背けていた。

 でも、ちらちらと俺の方を見て反応をうかがっている。

 そんな様子が小動物じみていて、可愛すぎる。


『実はどうやって想いを伝えようか最近、悩むことが増えていました』


 いきなり直球の想いが飛んできた。

 読んでいる俺もかあっと顔が熱くなってくる。


『直接言おうかな。手書きのラブレターにしようかな。初詣の時に言おうかな』


 一息ついて、続きを読む。


『でも、万里に伝えるなら、このPCを使ってプリントアウトした手紙で伝えるのも、私達らしいかなと思いました』


「ぷっ」

「笑わないでよ。私なりに真剣なんだから」


 クスっと笑ったのが聞こえてしまったらしい。

 目を背けていた幼馴染に抗議のじとっとした視線を送られてしまう。


「悪い悪い。続き読むな」


『あなたのことをいつ好きになったのかは実はよく覚えていません。昔だったのかもしれないし、最近だったのかもしれません。でも、幼い私が買ってもらったパソコンが動かなくなって困っていたのを、解決してくれた日のことは今でも覚えています。恥ずかしいですが、それ以来、万里は私にとってのヒーローです』


「ヒーローか。ちょっと大げさな気がするけど……」

「本気よ?」


 やっぱり目を背けつつ、いちいち反応してくれる真子。

 彼女がとても愛おしくて、気がついたら続きを読み進めていた。


『昔から万里とは色々な思い出を積み重ねてきましたけど、やっぱりPC関係の思い出が印象深いです。最近はプログラミングを教えてもらえるのも、私にとってはあなたの世界に少しでも近づけた気がして嬉しおでし。もちろん、あなたにとって私のプログラミングスキルはほんのひよっ子でしょうけど』

 

「プログラミング、な。教えるのは好きだし、真子と……一緒に居られるからな」


 真子がこれだけ想いを伝えてくれてるんだ。

 俺もお返しにちゃんと伝えてあげないと。


「そうだったの……?てっきり親切心だって思ってた」


 目を白黒させる、ちょっとちっちゃい、努力家の幼馴染。


「それもあるよ。でも、好きな女の子の前が喜んでたら嬉しいぞ」


 気がつけばとんでもない台詞を口走っていた。

 これ、告白とほとんど一緒だぞ?


「す、好き?私のことが?」


 羞恥が限界を突破したのか、真っ赤かなほっぺたの真子。

 思わず口走ってしまった言葉に気がついて、かあっとなる俺。

 

(でも、悪い気はしないな)


「もちろん」

「そうだったんだ……ありがと。続き、読んで欲しいな」


 懇願されて続く文に目を通す。


『あなたが高校生プログラミングコンテストに優勝した日のことは今でも覚えています。結果を待っている間落ち着かなかったので、報告を聞いたときはとても嬉しかった。抱き合ったあの時、あなたはきっと何の気なしだと思っていたんでしょうけど、私は勇気出したんですからね』


「俺もドキドキはしたさ」

「そうなの?」

「好きな女子に抱きつかれて嬉しくない男は居ないだろ」

「そ、そっか……」


 どんどん照れていく彼女がますます可愛い。


『高校中があなたの話でもちきりになって、学校から表彰もされたときは嬉しいと同時に、寂しくなりました。あなたが遠くに行ってしまった気がして。プログラミングに手を出してみようと思ったのは、その時でした』


 のことか。

 思ってもみないことだった。


 でも、逆の立場だったらどうだろう?

 たとえば、彼女がYouTuberとして人気になったら。

 きっと寂しく思っていたに違いない。


『それから、毎週、プログラミングを教えてもらうことなったのは知っての通り。私自身も自習して。おもちゃのようなプログラムを作れるようになったのでまだまだ。でもね。万里が「プログラミングは世界の現象を記述できる究極の手段だ」と誇らしげに語っていた理由が少しだけわかった気がします。だって、普段私たちがお世話になっている天気予報だって、プログラムで世界の先を予測してるのだから』


「なんか嬉しいな。そこまで考えてくれてたとは」

「それでもまだまだあなたのことを理解できたとは言えないけど」

「十分だって」 


『だから、私もプログラムでこの想いを表現してみますね』


(ええ!?)


 プログラムで、想いを、表現?一体何が書いてあるんだ。


『function forever(){

console.log("大好き");

forever();

}

forever()』


 書かれていたのは単純なJavaScriptのプログラムだった。

 foreverの意味は「永遠に」。

console.log("大好き") は「大好き」を画面に表示する式。

 foreverの中でforever()を呼び出すということは、

 ずっと「大好き」が画面に表示され続けるわけで。


 つまり「ずっと大好きでいるから」が告白の意味だ。

 forever、つまり「ずっと」が重くて、でも嬉しい。


「引かれると思わなかったのか?」


 これから彼氏彼女の間柄になる相手に、普通なら重いけど。


「でも引かないでしょ。万里なら」


 それでも自信ありげに堂々と言う真子。

 伊達に付き合いが長いだけあってよくわかってる。

 ただ……


「これだと無限ループじゃなくてスタックオーバーフローになるけど」


 forever()関数で再帰呼び出しをしているけど、これだとたぶん1000回くらいで絵エラーで止まってしまう。



「もちろんわかってるけど、見逃してよ」

「いやいや。ちょっと気になっただけ」


『ラブレターはここまでです。こんな私で良ければ、あなたの恋人にしてください。ちょっと先走り過ぎですが、恋人だけでなく、ずっと一緒にいられたらもっと嬉しいです』


 手紙を読み終えて感じたのは、少しの恥ずかしさに喜び。


「ありがとうな、真子」

「うん」

「もう返事はしちゃったようなものだけど、紙貸してくれるか?」

「いいけど……」


 さらさらとボールペンで紙に、彼女への返事を書きつける。


「読んでみてくれ」

「……これから彼女になる人にこんなマニアックな伝え方する?」

「最初にやってきたのはそっちだろ」


 俺が紙にかきつけたのは。

 Schemeというマニアックな言語のプログラム。


『(define (forever)

(display "愛してる")

(forever))

(forever)』


 言語は違うけど、真子が書いたのとほとんど同じ意味だ。


「言いたいことは伝わるんけど……。同じように途中で止まらないの?」


 きっちり勉強してるだけあって疑問を持ったらしい。

 本当に真剣なんだな。


「それが実は止まらない。キーワードは末尾再帰」


 嬉しくて、ちょっと気取ってみる。



「末尾再帰、ね。それくらい理解できなくちゃ追いつけないってことね」

「別に無理に追いつこうとしなくても」

「私が悔しいから。それに、プログラミングも楽しくなってきたしね」

「これで恋人か……なんかニヤけてしまうな」

「私も……嬉しい」


 お互い見つめ合って、目をそらして。

 恥ずかしいことをしていたら気がつけば夜の11時過ぎ。


「あ。もうこんな時間……初詣に行く準備しないと」

「そうだな。いい年明けを迎えられそうで良かったよ」

「私もね。あ、和装に着替えるから外で待ってて」

「りょーかい。彼女と初めての初詣か」

「も、もう。恥ずかしいって」


 今から和装に着替えるのだろう。

 真子の着物姿を想像しつつ、部屋を出ようとしたら、


「あ、ちょっと待って!」

「うん?」

「……」


 振り向いた俺の目前には彼女の顔。チュっと水音がした。

 少し経って、彼女にキスされたのだと気づいた俺はやはり顔が熱い。


「か、彼女になったら真っ先にしてみたかったの」

「お、おう。嬉しかった……」


 唇の感触を思い出しながら、呆然と廊下で立ち尽くす俺だった。


 午前0時過ぎ。近くの小さな神社にて。


「あけましておめでとう、真子」

「あけましておめでとう、万里」


 新年を祝いあった俺たち。


「今年は真子ともっと色々なことしたいな」

「私も。プログラミングだって上達したいし」

「そっちは程々にな。クラスの奴らに言ってもいいか?」

「うん。ちょっと恥ずかしいけどね?」

「じゃあ、自慢の彼女だって紹介するからな」

「私も自慢の彼氏……旦那様って紹介しようかな?」

「旦那様か……案外いいかも」

「ちょっとちょっと。本気にしないでよ?」

「わかってるって」


 寒空の中。

 賑やかに話しながら。

 そして腕を組みながら。


 仲良く家路についた俺たちだった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

今回のテーマは「パソコン✕ラブレター」でしょうか。

闇鍋っぽい組み合わせですね。

二人の甘くてちょっと変なやりとりをお楽しみください。


楽しんでいただけたら、★レビューでの評価や応援コメントくださると嬉しいです。

では、皆様、良いお年を。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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