第24話 オニと呼ばれる一族襲われ、いとうし・その四

「なにいってる?」


 赤肌の鬼人の女性は首を傾げるばかりで私は必死に言葉を探します。

 すると、先ほど私に話しかけてきた少し老いた雰囲気の薄い灰色の肌の鬼人が何事かを赤肌の女性に、いえ、全員に向かって叫んでいるようでした。


「あなた、もしかして……」

「ああ、ワタシは喋れる……説得はした。ひとまず、様子を見る。まだ、納得したわけではない」

「でしょうね」


 言ってることは分かります。今までの事全て含めて私たちを真に信用するわけにはいかないでしょうから。


「ビ、ビオラ!」


 ゴウラさんがこちらに駆けて来られます。

 移動しながら、敵を叩き潰していたのでしょうか。

 返り血のようなものも見えますし、彼自身も傷を負ったようです。


「ゴウラ!」

「ゴウラさん、お帰りなさい。先に、ドウラン先生治す。いい?」

「うが!」


 ゴウラさんは歯をむき出しにして頷いています。

 ゴウラさんは私たちの事を認めて下さっているので、少し空気も緩和された気がしてほっとします。さて、


「貴女!」


 私は、赤肌の鬼人の女性、ええい、めんどくさいですね。


「貴女の名前は? 私、ヴィオラ! 貴女は!?」

「リンカ……」

「リンカ! この小刀に毒は!? 毒」

「ワタシが話そう。ああ、ワタシは、ラデンだ。リンカ……」


 私達の言葉を理解できるラデンさんが、リンカに問いかけます。

 リンカは首を振ります。それだけで十分。


「では、先生。治癒だけを行いますね」

「ああ……治癒はこの【治】の札だ。【金】と【水】と【木】を均等にして【火】と【土】を気持ち込めるんだ」

「はい!」


 ドウラン先生からオフダを預かると私は魔力を全力で込めます。急いで治療せねば!


「い、いやいやいや! そんな込めなくていいんだよ! 何をどうするつもりだ!?」

「え?」


 私がドウラン先生の言葉に首を傾げると、手から放たれた魔力が異常に膨らみ始めて……。


「四神方陣は、流れを整え、魔力を高める効果もあるんだよ! ただでさえお前さんの馬鹿でかい魔力をこん中で出したら……」


 私の魔力が【治】の札に送り込まれる瞬間、白い光が弾けて、何かと共鳴するような音が、キィイイインと鳴り響きます。


「なに、これ……!」


 光の奔流の中で、私は音の正体を突き止めようと里の奥に視線を送ります。

 すると、里の奥で、白いジパング服を身に纏った黒髪の男性と、赤肌の鬼人の女性……そうですね、リンカさんをもっと大人にした感じの強さと色気が溢れた方がぼんやりと光を纏いながらこちらを見て笑っていました。


― 火を灯せ、火で固い金を、溶かすのだ ―



 そう呟くと二人は白い炎に包まれその炎が塊となり私の身体に……。


「熱っ……!」


 私の中に入ると炎は私の身体の中を暴れまわり、どんどんと赤く染まっていき、私を焼き尽くさんと絡みついてきます。

 気付けば、私は、沢山の燃える鬼人達に身体を掴まれているではありませんか。

 見れば、鎖で何かに繋がれてます。彼らは泣き叫んでいる様子でしたが、涙は火に消され、声も燃え盛る轟音で私の耳には届きません。


 私に出来ることは……。


 私は、そっと一番近くで喚いている鬼人の足元の鎖に触れ、火の流れを操りそこに流し込みます。他の五行で鬼人の方を守りながら……。


 ああ、そうか。これは調和の魔法。

 五行陰陽術は、こんな事も……。


 ゆっくりとではありますが、鎖が溶けていき、最後には彼女を縛り付けていた鎖が消えてなくなってしまいます。

 すると、彼女の身体を包む炎は消え、彼女の顔が露になってくるではありませんか。

 その顔は優しく微笑んでいて……。


「ありがとう。本当にありがとう」


 流れるような美しい声で、私にそう言ってくれました。

 そして、彼女のその言葉に反応するように次々と他の鬼人達に絡みついていた鎖が溶けてなくなっていくのです。


「ありがとう、シュカ様」


 私の目の前の女性はそう言ってふわりと天へと舞い上がっていくのでした。

 それに続きみんなが口々に私に御礼を言いながら、空へ。

 美しい青空が、目の前に……。


「おい! おい! お嬢ちゃん! ヴィオラお嬢ちゃん!」


 ハッと気づけば、ドウラン先生が私を覗き込んでいらっしゃいます。そして、その向こうには空が……どうやら、私は倒れてしまっていた様ですね。


「先生……お身体は……!?」

「いやあ、お蔭さんで治った、んだけどよ。まあ、ちっとなんだ、ちょっと大変だぞ、これ……」


 ドウラン先生はご自身の脇腹を叩きながら治癒が成功したことを教えて下さるのですが、どうにも歯切れが悪く……。


「私の術が何か失敗を?!」

「いや、失敗というか逆に成功というか……」

「おお! ヴィオラ目を覚ましたのか!?」


 地面が揺れるのではないかという程の大声に私は身を竦ませます。

 流ちょうな言葉、ラデンさんでしょうか……にしては、若々しい声。

身体を起こし、声の主を確かめると、そこにいたのは、ゴウラさんでした。


「良かった。急に倒れたので、ワタシも気が気じゃなくて……!」


 リンカさんまで流暢に話をしていらっしゃいます……。


「えーと、どういうことか説明するのが面倒だな……」

「であれば、置いときましょう!」

「「「いやいやいや……」」」


 三人が一斉にツッコミをしてきますが、無視します。


「ヨーリの元へ向かいましょう」

「……あー、やっぱりそうか」


 ドウラン先生は、頭を掻きながら立ち上がります。流石先生話が早い。


「ど、どういうことだ? ヴィオラ、オレにはさっぱり」

「ワタシも行くよ。状況は分からないけど、シュカ様の生まれ変わりであるアンタの力にならなきゃ鬼人族の恥さらしだ」

「ありがとうございます。詳しくは道中で話します! すぐに行きましょう! この事件を起こした極悪人の元へ」


 小鬼や餓鬼を操り、鬼人の里を襲い、恐らく、国崩しを企んでいた愚か者の顔を拝みに参りましょうか。

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金髪碧眼ノ陰陽師~「四大元素魔法を理解できない落ちこぼれが!」と追放された私ですが流れ着いたジパングで五行とコメと美丈夫に出会って『いとおかし』でして、戻って来いと言われましても『いととおし』~ だぶんぐる @drugon444

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