第14話 ゴギョーという四大元素魔法と異なる概念、いとしるし・その四

「さて、じゃあ、どうやら理屈は分かったようだし、ちょっと実践してみようか」


 ドウランさんと庭で向かい合います。夜も更けてきたのですが、どうしてもこの感覚を試しておきたくて、無理を言って少しだけお付き合いいただくようにお願いしました。


「よろしくお願いいたします」

「まあ、つっても。聞いたところ、もう何回か術は使ってるみたいだし、それに対し理解を深めるって感じだな。じゃあ、まずは! フウコ!」


 フウコさんはドウランさんの声に引き寄せられるように風に乗って、こちらへとやってきました。私を見て怯えたままですが。


「フウコ、そんなに怯えるなって」

「だだだだだって、ドウラン! コイツのこの魔力! 異常よ! 化け物よ!」


 フウコさんが私を指さし泣き叫んでいらっしゃいます。


「確かに、魔力量だけはディフォルツァ家始まって以来と言われていましたが、そこまででしょうか?」


 私が首を傾げていると、ドウランさんが頭を掻きながら困ったように笑います。


「あー、多分だな。お嬢ちゃんが思っている以上の魔力量が今、お嬢ちゃんに集まってるんだわ。お嬢ちゃんが感じている通り、お嬢ちゃんには四大元素魔法よりも五行陰陽術の方が向いてる。ちょっとややこしい話になるが、元々ジパングの神々は五行に基づいて世界を構成してたからな。……まあ、分かりやすく言うと」

「ジパングの地に来て、私の魔力量は更に上がっている?」

「ま、そういうことだ。だけど、五行陰陽術ってのは、さっきも言ったが、流れの魔法だ。いかにうまく流すかが最も重要なんだ。フウコ、お前が見本を見せてやってくれ」


 ドウランさんがそう言うと、フウコさんは一瞬呆けたような顔を見せたかと思うと得意げな顔に変わり、


「あっはっはっは! そうかえ? このフウコが見本を? わかったわかった! では、そこの金髪女よ! とくとみるがいい!」


 フウコさんは急に声が大きくなったかと思うと、歌うように詠唱を唱えながら先程の五芒星を描き始めます。


「歌は補助的な効果がある。歌の流れは術の流れに通じ、その術の理を明確にする。歌に沿い魔力を高め五芒星を描く。そして、正しい流れ方をした魔力は術に変わり現れる」


 青白く輝くフウコさんが手刀で空を切ると、風の刃が現れ、庭の木を切り裂いてしまいます。

 四大元素魔法でいうところのウィンドカッターでしょうか。


「と、まあ、こんな感じだな」

「フウコさんを包んでいたあの光は?」

「うん、流石に今度は見えたか。基本的な考え方としてもう一つ。俺達は、全てのものに神は、まあ、正確には魂が宿り、魂の力を借りて奇跡を起こすと考えている。さっきフウコを包んでいたのも風に関する魂だ。そして、」


 ドウランさんが詠唱をしながら、先ほど切られた気に向かって緑を光で五芒星を描くと、蛇のように魔力が這っていき、木を元に戻していくのです。


「これが、木の魂を借りた術だ。とはいっても、何度も言うが、五行では一種類の魔力では成立しない。人の身体が色んなもので構成されているように、魂も色んなもので構成されている。まあ、そういう感じだ」


 ドウランさんは非常にふわっとした感じで話されますが、人柄もあるのでしょうが、五行陰陽術においては、そういった囚われない思考が重要なんでしょうね。


「まあ、一先ずは、フウコのやった風刃ってんだが、あれを正確に作り出せるようになるところからだな」

「はっはっは! 金髪女よ! 精々がんばるがよいぞ!」

「はい♪ 大体覚えましたのでやってみますね」

「「え?」」


 四大元素魔法は、非常に合理的な感じですが、どちらかというと力押しというか魔力を捏ねて押し出すイメージでした。

 ですが、五行陰陽術は、曖昧でありながら実に理論的。結論に正しい手順を踏んでいくもの。


 結果に辿り着くために、最適の手順を踏む。

 グロンブーツ王国を、ディフォルツァ家を、支えるために私は多くの結果を見つめ、流れを見てきました。その沢山の人の思惑入り混じった流れに比べればなんと素直で美しいものでしょうか。


 魔力を込めながら、私は五芒星を描いていきます。

 そうですね、比率で言うなら、木4、火1、土1、金1、水3と言ったところでしょうか、細かく言えば切りがないですが、そして、火と土で魔力を練り、金で形作り、水で流し込み、木で……放つ!


「おいでませ、風『神』☆」


 私の放った大鎌のような風の刃はフウコさんの頭上を飛び越え月を隠していた雲を。


「き、切り裂きやがった……!」

「あ、ばばばばばば……ばけもの」


 フウコさんが泡を吹いていらっしゃいます。あらまあ。

 でも、丁度良かった。暗すぎて、足元が危なくなってきていましたから。

 雲が切れて月明かりが私たちを照らしてくださいます。

 その光は、私のこれからを明るく照らす光の様で……。


「いやあ、参った。こりゃあ本当に救世主様の登場だ」

「素敵です、ヴィオラ様。ねえ、兄様!」

「ああ、彼女こそが……!」


 皆が私を見て笑って下さっています。こんな遥か彼方ジパングの地に、私のような人間を温かく迎えて下さる場所があるなんて……。


 ゲンブ様が庭に下り、私に跪かれます。


「ゲンブ様! そのような……!」

「いえ、我々は貴女をお待ちしておりました。我々に力をお貸しください。救世主様、いえ、」


 顔を上げたゲンブ様はとても美しく優しい笑みで名前を。


「金髪碧眼の陰陽師、ヴィオラ様」


 こうして、祖国を追放された私は、ジパングの地で、陰陽師として新たな一歩を踏み出すのでした。

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