第13話 ゴギョーという四大元素魔法と異なる概念、いとしるし・その三

「さて、じゃあ、俺が、ヴィオラのお嬢ちゃんに五行について教えればいいのか?」


 ドウランさんは、顎髭をいじりながらゲンブ様に問いかけます。

 ヤスケ様や家臣の方たちはもう去って行き、残ったのは、ゲンブ様とサヤ様、そして、ドウランさんと未だに隅っこで震えているフウコさん、それを興味深く眺めるヨーリと、私でした。


「ぽーん?」

「ひい! 来るな! バケモノの従者のバケダヌキ!」


 仲が良いようでなにより。

 私は視線をゲンブ様に送ると、ゲンブ様は小さく頷かれます。


「そうですね、五行について私が話すよりもドウラン殿が適切でしょうから」


 ゲンブ様はそう言ったものの席を立つ様子はなく、サヤ様と並んで座ってこちらを見ていらっしゃいました。

 ドウランさんは、うんうんと頷いて身体をゆらゆらと揺らしながら口を開きます。


「あいあい、じゃあ、まず基本的な考え方だが、五行と四大元素で大きく異なる点。分かりやすく言うと五行ってのは五つの属性ありきで使う魔法だ」

「ん? それは普通では?」


 属性ありき。それは四大元素魔法でも同じこと。

 四大元素が世界を構成しているというのは、魔法学の最初に学ぶことでしたから。

 ですが、ドウランさんは困ったように頭を掻きながら言葉を探している様子。


「えーと。つまりはな、魔法を使うという段階での考え方なんだよ。まず、四大元素魔法ってのは、火・水・土・風、これらの魔力をそれぞれ使ってそれぞれの魔法を発動させる。だが、五行ってのは、木火土金水、全ての属性を使って使うものなんだ。あー、これを見た方が早いか。これは五芒星だ」


 そう言いながら、ドウランさんは私ももう何度か見た星形の模様を見せてきます。


「一筆書きで書ける星。これが五行の肝。一筆書きってのが重要なんだ」


 何か大切なものに手が届きそうなそんな感覚。

 指先が、何かに触れた気がしました。


「……分かるか、五行の概念に基づいた魔法の発動、まあ、これを俺達の言い方で術ともいう。分かりにくいから術で話すぞ。五行を使った術は全ての属性を通って生み出される【流れ】の魔法なんだ」


 とん、と先程触れた何かが自分の身体の中に入ってきました。


 それは五行の理。


 根本的な魔法の概念の違い。

 四大元素魔法は、火の魔力で火の魔法、水の魔力では火の魔法は生まれないから必要ない。

 けれど、五行は、火に始まり、土、金、水、そして、木を通り、火にかえり火の魔法が生まれる。

 ですが、私には凄くしっくりくる考えでした。

 人は火を起こす為に、石を使い、風を起こし、弱くするために時に水を使う。


 なのに、何故火の魔力だけで火を操作しているのか。


 私には不思議でした。

 全ての要素を使って、高めたり、動かしたり、弱めたりする。

 それは、私にとって世界が開けた瞬間。

 それこそが私のイメージする世界であり、魔法。


「陰陽術には式神ってのがある。式とは流れだ。生み出された流れで疑似的な神を生み出す。吉凶を占う術がある。それもまた良い流れの道を見つけ、悪い流れの道を避ける。だが、吉凶とは満ち欠け、凶があるから吉がある。闇があるから光がある。切り離せないわけだ」


 分かります。善人が何もかも善意に満ち溢れているわけではないように、悪人も何もかもが悪意で動いているわけではない。魔力も心も非常に不安定なもの。


「先ほどの移動術も?」

「そう、そういうことだ。あれも流れを掴むってことだ。魔力ってのは心だ。心の薄いところを流れるように進むと人の意識外をすり抜けることが出来るんだ。陰陽術とは、全てが陰と陽の表裏一体、そして、五行の流れで存在する。『曖昧』なものだ。全ての属性の流れを意識しながら作り上げるそれが」


 ドウランさんが、五芒星を空に描く。


 すると、風の魔力が集まり、火に混じり、土に還り、金が練られ、水が生まれ霧と化し、風が生まれ、五芒星が。

 そして、五芒星から生まれた自由なその風は暴れながらも一方向に、蛇のように滑りながら飛んでいき、私の中のもやもやを吹き飛ばしてしまったようでした。


「このジパングの五行という概念、そして、陰陽術だ。スッキリした四大元素魔法よりも、曖昧で混沌としてひっじょーに面倒なもんだが……どうやらヴィエラ嬢にはしっくりきたらしいな」


 にやりと笑うドウランさんの瞳の中には、目の前が晴れたようにスッキリした私の顔が映っていました。

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