第12話 ゴギョーという四大元素魔法と異なる概念、いとしるし・その二

 フウコさんと呼ばれた女性は柱の影で震え続けています。

 少し青みがかった黒髪で、肌は雪のように白く、眼は細く吊り上がっているので厳しそうに見えますが、今は恐怖に震えています。


「フ、フウコ……お前、ドウラ」

「な、な、なんだあああ!? そこの化け物は!? うわあああああ!」


 ゲンブ様が話しかけようとしますが、フウコさんは泣きわめいていて聞く耳を持っていないご様子でした。


「えーと、お話を伺えそうにありませんね……ということは、貴方にお聞きすればいいのかしら?」


 私は、ナイフを取り出し、左手に持ち替えながらフウコさんとは逆方向左後方の空を突くと、そこから声が。


「ひい~。これも【視えてる】のかい? 本当に、化け物なんじゃないのかい? この娘」


 声の主が徐々にその姿を現し、両手を挙げて降参の意思を示していました。

 少し肌が焼けて浅黒く、顎髭をたくわえたその男性は、降参しているにも関わらずへらへらと笑いながら、それでも目だけはじっとこちらを見つめていらっしゃいました。


「ドウラン殿!」


 ゲンブ様が呼んだことには反応せず、ドウランと呼ばれた男性はゆっくりと下がりながら両手を下ろします。

 私は、ナイフを向けたまま問いかけます。


「先ほどのは魔法ですか?」

「えーとねえ、まあ、俺達陰陽師にとっての魔法、陰陽術の一つだな。最も流れが薄い場所に合わせて己を風に遊ばれる蝶の様に舞いながら移動する」


 そうドウランさんが言うと、ドウランさんは『また』魔力を軽くし、ふわりと歩き始めます。

 私もそれを真似てふわりと浮かびドウランさんを追います。


 それは不思議な感覚。


 目的地にふらふらと向かっているのに、最も適切に進んでいる感覚。

 風に遊ばれる蝶とはまさしくその通りですね。

 色んな風が吹き乱れる中、ようく見れば道筋が出来上がっている。

 ドウランさんは酔っ払いのような歩き方にも関わらず、確信を持ってふらふらしているという矛盾を抱えながら進んでいきます。


 そして、ドウランさんが立ち止まり、私もそこで『降りる』。

 すると、


「え!?」

「あ、きゃあ!」


 私が辿り着いたそこはゲンブ様の目と鼻の先で、慌てた私はバランスを崩し、思わずゲンブ様の胸に飛び込んでしまいます。


「はあっはっは! 流石にやられっぱなしは面白くないからな。ちょっとばかしやりかえしてやった。まあ、美丈夫に抱かれたんだ。いい思いもさせてやったから許してくれ」


 ドウランさんはそう言うと私に背を向け、再び部屋の真ん中へと歩いていきます。

 ただ、その歩みはとてもゆっくりで、とても美しく、『正しい順で歩いている』そう見えるのです。


「海の向こうから来たにも関わらず、感覚的に五行をここまで読み取れる人物とは、俺の先見の術も馬鹿には出来ないなあ」

「え? ということは?」


 私が見上げると、ゲンブ様は男らしいゴツゴツした手で私を掴み支えながら教えてくださいました。


「彼こそが、先ほどの予言を読んだ陰陽師なのです」


 私が再び彼に視線を戻すと、そこには五匹のそれぞれ美しく光る紙の蝶が。


「ドウラン、えーと、ドウラン・アリマだ。よろしくな碧い目のお嬢ちゃん」


 それが、私のジパングに来て最初の師となるドウラン先生との出会いでした。

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