第6話 ジパングという所に辿り着き、いととおし

「さて、では、まず状況を整理していきましょう」


 受けたダメージを回復し終えたゲンブ様が周りを見回しながら仰います。


「かしこまりました。若」

「はい、お願いします。お兄様!」

「ええ、ゲンブ様」

「ぽぽーん」

「うが!」


 ゲンブ様を囲むように半円となった私達、ヤスケ様、さや様、私、ヨーリ、レッドオーガが答えます。


「って、ちょっと待てーい!!! なあんで、赤鬼が普通に参加している!?」


 ヤスケ様が急に立ち上がり、ツッコミを入れていらっしゃいますわ。レッドオーガ、もとい、赤鬼さんも急に大声を出されたのでびっくりされていらっしゃいます。


「まあ、それは置いといて」

「置いておけるか! お前はなんでも置いておきたがるな!」

「些末な事を気にする人が多すぎるのです。時は金なりですわよ?」

「お前にとって些末でもな! 拙者にとっては重要な事だ! さっきまでさや様を襲い、ゲンブ様に傷を負わせた魔物なのだぞ!」


 まあ、確かに、それは良い事ではありません。傷つけるという行為は。ですが、


「ですが、これは互いの理解不足が起こした悲しい結果ですのよ」

「はあ!?」

「実はな、ヤスケお前に、屋敷への連絡を飛ばしてもらっていた時に明らかになったのだが……」

「すまん! てき、おもた」

「な……魔物が……喋った……?」


 ヤスケ様、赤鬼が喋っていることに驚きを隠せないご様子。

 無理もありません。先ほどまでお二人も驚かれていましたからね。


鬼人オーガ族は希少な種族で、魔物であるオルグと間違えやすいですが、亜人というべきか、とにかく、彼ら独自の言語を持ちます。なので、人語も理解出来ますし、学習することは可能です」

「ば、馬鹿な……! そんなことは、誰も……!」

「ええ、ですから。説明しましょう。互いに知らぬことを」


 私の言葉にゲンブ様が深く頷きます。


「では、まず、どこから話すべきでしょうか……?」

「すみません、家の者たちが来るまでに、先にヴィオラ殿についてお伺いしても良いでしょうか」


 簡潔に話すとしても互いに理解共有し合う必要があるので何から話すべきか考えあぐねていると、ゲンブ様が手を挙げて仰いました。さや様もヤスケ様も大きく頷いていらっしゃいますね。


「そうですね、何も分からない人間を連れて行くわけにもいきませんものね。とはいっても、私が私の話をするわけでどこまで信じて頂けるか分かりませんが……」

「信じます! 貴女のような素敵な方が嘘を吐くはずなどありません!」


 さや様が私の手を強く握り輝く目で私を見てきます。ま、眩しい……!


「あ、あの……さや様、ありがとうございます……」

「きゃ……あの、さや、とお呼びください……」


 さや様が、頬を染めて仰っているのですが、えーと。


「……若、一体何が……?」

「どうやら、助けられたことで非常に憧れの情を抱いているようなのだ……」


 男同士で何かお話されていますが、まあ、何事も気にするのが負けです。そ、それに……さや様の目が眩しすぎて早く解放していただきたいというか……。


「では、お話いたしましょう」


 私は、グロンブーツ王国出身で、ディフォルツァ家に生まれアレク王子と婚約していたこと。

 けれど、魔力はあるのにうまく魔力を操作できなかったことや、天職の儀式で【オンミョージ】というグロンブーツ王国では誰も知らない天職を授かってしまった事、髪に一筋の黒髪が混じった事、その他まあここは詳細省きましたが、色んな理由で婚約破棄、そして、国を追放されたことを説明しました。

 赤鬼さんには、ヨーリがどうやら説明してくれていた様子。ヨーリと念話のようなものを交わしていたようでしたが、


「ぽーん」

「うが」


 小さくてふわふわなヨーリの説明に大きくて強そうな赤鬼さんがぺこぺこ頷いているのはなんだかほっこりする景色で眼福でした。ですが、そんな私のほっこり気分をよそに、さや様や赤鬼さんは顔を真っ赤にして怒り始めます。まあ、赤鬼さんは最初から真っ赤でしたが。


「ひどい! こんな素敵なヴィオラ様を追放だなんて!」

「うが!」

「しかし、お話の様子ですと、追放といってもよくご無事で、というか、どうやってここまで……」

「ああ、私、海賊の友人がおりまして」

「「「「はあ(うが)!?」」」」

「まあ、その友人の力を借りたり、すったもんだありながらここまでやってこれたのです」

「「「「いやいやいや(うがうがうが)!」」」」


 皆さんでツッコミをいれてきますが、事実は事実ですので。

 そういえば、ツッコミという言葉を教わったのも彼女からでしたね。


「聞きたいことが増えてしまった気はしますが、まあ、いいでしょう……一先ず、我々とこの国の紹介をしておきましょう。私は、ツルバミゲンブ。いえ、ゲンブ・ツルバミですね。ツルバミの国の一族のものです」

「王子ということですね?」

「いえ……まあ、少しその辺りは複雑なので置いておきましょう。そして、妹のさや、従者のヤスケです」


 皆様がそれぞれ頭を下げてくださいます。

 あらま、赤鬼さんも。

 この国の方は皆、丁寧ですわね。


「オレ、ゴウラ」


 赤鬼さんはゴウラさんというお名前でした。


「まず、貴女と初めてお会いした時にも言いましたが、ここは【ジパング】という所です」

「そう、ですわよね……。ですが、先ほどはツルバミの国と……」

「ええ。元は、九つの国が四つの大陸で覇権を巡り戦い続ける地でした。ですが、ある出来事を境に、そう呼ばれるようになったのです。【閉じられた国・ジパング】と」

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