第7話 ジパングという所に辿り着き、いととおし・その二

 【閉じられた国・ジパング】


 その名前は、私も聞いたことがありました。


「確か、数年前に、大襲撃スタンピードが起きて……」

「ええ、突如魔物達の大量発生が起き、我々も抵抗はしましたが、自分たちの領土をかなり魔物に奪われてしまいました。そして、その後、諸外国の支援を受けながらなんとか生き延びているのです。その際に、窓口となってくれたクレナイの国の提案で、外の国と出来るだけ対等になるべく同盟を結んだのです。それをジパング同盟と……」


 なるほど。この大陸は、非常に小さいと聞いておりましたし、外国とやりあう為に同盟を結ぶのは得策と言えるでしょう。ですが、


「何やら、納得のいっていない部分がありそうですね」

「部分!? 部分どころではない! 全部だ! 全ては、クレナイと外国の陰謀に違いない!」


 ヤスケ殿が急に声を荒げ話に入って来られます。


「やめろ、ヤスケ。憶測だ……。ですが、ヤスケの気持ちも分かるのです。クレナイはジパング同盟を、外国に対し国と名乗り、その代表として自身を挙げたのです。そして、クレナイを外国との全ての窓口にし、他の国を属国扱いし始めました」


 ゲンブ様が手で制すといきり立っていたヤスケ様も納得いかない様子ではありましたが、口をきゅっと噤みます。とはいえ、ゲンブ様自身も納得はいっていないようで眉間には小さくではありますが、皺が刻まれています。


「つまり、例えば、今、クレナイや近隣の外国からはツルバミ国は、ジパング国ツルバミ領だと思われているわけですね。そして、そのクレナイが不当な扱いを……」

「その通りです……。クレナイは、外国から冒険者ギルドや優れた魔導具を持ち込んでくれたりしました。ですが、道具は値段が非常に高く財をもぎとるようなもので、各地に置かれた冒険者ギルドも横暴がひどく……」


 話をしていると、集団がやってくる声や音が。

 迎えの方が来られたのでしょうか。

 森の奥からやってきたのは、ゲンブ様と同じようなジパング独特の鎧に身を包んだ人々と、グロンブーツ王国でも見た冒険者ギルドの証を付けた脂ぎった小柄の男が……。


「イガロ殿……」

「いやあ、困りますなあ! ゲンブさん! そんなに薬草採集がしたいのならば冒険者ギルドを通してください! 貴方様が危険に遭ったらどうします!? 呪紋もあって満足に動けないでしょうに! ちゃーんと薬草くらい準備してあげますよお! カネさえ払ってくれたらねえ!」


 イガロと呼ばれた冒険者ギルドの男は、いやらしい笑みを浮かべながらゲンブ様に迫ります。ゲンブ様のご様子を見るに、どうやらこの男が冒険者ギルドの横暴者のようですわね。

 それに先ほど言っていた呪紋というのが、ゲンブ様の身体に浮かんだ黒い呪いのようですが……まあ、それは置いておきましょう。


「イ、イガロ殿にわざわざ来てもらう程の事では……」

「困るって言ってるだろうが! 薬草採集でもなんでも冒険者ギルドを通してもらわないと! 誰がお前たちを守っていると思っているんだ!? 俺達冒険者ギルドがなければなんにも出来ないお前たちを! おい、デカブツお前も聞いてるのか!?」


 後ろの方たちが憎々し気に睨んでいることも気づかずに、イガロはヤスケ様を突き飛ばし座ったままの男に話しかけます。ですが、それは……


「うが?」

「ぎ! ぎゃあああああああああ! れ、レッドオーガ!」


 ゴウラさんでした。

 イガロはそれを見て腰を抜かしたのか座り込んでしまいます。

 そして、漸くその存在に気付いたイガロの奥の方たちが弓を構え始めます。


「ま、待ってください! この方は!」

「射てー!」


 さや様が庇うより早く、イガロの掛け声で矢が放たれます。

 せっかちな方たちですね、私は見覚えのある【火】【木】が大きく書かれたオフダを抜き出し、魔力を込めます。

 途端に、炎の渦が現れ矢を巻き取り燃やしていきます。


「は、はあ!? こ、これは炎嵐ファイアストーム!? 誰がこんな魔法を!?」


 イガロが地面にしりもちをついたまま叫んでいましたので、私は歩み寄り声を掛けて差し上げます。


「お初にお目にかかります。イガロ様。私、グロンブーツ王国より参りました、ヴィオラと申します」

「グ、グロンブーツ王国、から? グロンブーツ王国の人間が何故ここに!?」

「まあ、それは置いといて」

「置いとけるかー!」


 話が前に進まないのでイガロのツッコミは無視します。


「確か、冒険者ギルド法において、【その地域の法に従い、冒険者ギルドは飽くまで依頼を受け仲介する役割を持つのみ】というのが大原則であったはずですが……」

「は、はあ!?」


 イガロが随分と取り乱しています。この分だと大分オイタしているようですね……。


「お、お前何を偉そうに……」


 イガロが漸く気を取り戻したのか、腰の長剣を抜いてこちらに向かってきます。ゲンブ様がこちらにやってきますが、心配ご無用。

 こちらから近づき腕を極めて、長剣を奪い取り、イガロに向けます。そして、首にかけていたカードを見せると、イガロは再び仲良しな地面とお尻をくっつけてしまいます。


「ああ、失礼。こちらで名乗るべきでしたね。冒険者ギルド貢献度Aランク、智謀のヴィラン」

「え、え、え、え、Aランクゥウウウウ!?」


 イガロが驚いています。やはりこれが手っ取り早くていいですね。

 グロンブーツ王国では、まあ、色々と裏でもめ事をおさめるために偽名で冒険者をやっていて、まあ、色々なんとかしてしまったので、気付けばAランクになっていました。

 飽くまで貢献度ですが、この場では有効でしょう。それに、真っ当なギルド職員とは思えませんし……。


「冒険者ギルド本部にも何人か知り合いがいますので確認をとっていただいても構いませんよ。ちゃんとした連絡をして下さるかいささか不安ですが。……さて、折角なので、私もツルバミの地に、そして、冒険者ギルドに行きましょうか。色々聞きたいことが出来ましたし」


 全く……遠く離れた異国の地にもこういう輩がいるなんて、頭の痛い話ですわ。

 さっさと話を進めたいので、地面とお尻をお別れしていただきたいのですが。

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