第5話 オンミョージという謎の天職で追放、いとわろし・その五

 白馬に乗った私とゲンブ様は、風の如き速さで浜辺を後にし、森の中を駆けていきます。


「す、凄いですわ……」

「いや、これが貴女の力なのですよ。ヴィオラ殿」


 信じられない。グロンブーツ王国では、召喚術でも一つも呼び出せず、土魔法でもうまくゴーレムを作り出せなかった私が、こんな美しい白馬を……?


 白馬の身体を見つめると、うっすらと五色の魔力で構成されているように見えます。


「五色の魔力が……」

「貴女には見えるのですね。五行の力が」

「ゴギョー?」

「陰陽師の基本的な魔力に対する考え方です。陰陽五行と言われ、陰と陽。そして、木火土金水。これらを操り、様々な魔法を使うのです」


 グロンブーツ王国での四大属性と光・闇とは異なるようですわね。

ですが、


「妙にしっくりくるのです。その、ゴギョーという言葉自体も、オフダやシキガミという魔導具も……」

「良かった。我々も守り通していた甲斐がありました」

「守り通して……? それは一体どういう……もっと詳しく……!」

「あ、あの!」


 私が更にお話を伺おうと身を乗り出すとゲンブ様が急に大きな声をお出しになられます。


「どうされました!? 敵襲ですか!?」

「い、いえ……あの、大変申し上げにくい事なのですが……その、こ、腰に回した腕を、その、少しでいいので緩めて頂けないでしょうか。その、むむむむむむねが、その!」


 見るとゲンブ様のお耳は真っ赤で、私はようやく力が入り過ぎて私自身の身体をゲンブ様の背中に思い切り押し付けてしまっていたことに気付きます。


「あああああああの、すみませんわ、わたくし、はしたないまねねねねねを!」

「いいいいえ、だだだいじょうぶでござるます! 白馬がすごいはやさでござりますので、ただだだだ、あの、少しゆるめていただけると、あ! 決して、その、少ししかゆるめては駄目だとかそういうやましい気持ちの少しではなく! ですが、その! 嫌なものというわけでなく、あの、大変やわらかく……」

「分かっております分かっておりますからそれ以上仰らないで!」


 あまりにも混乱していたので顔を真っ赤にした私達二人は、


「ぁぇええええ!? わ、若様あああぁぁぁぁ~……!」


 一瞬で追い抜いていったヤスケ様に気付くことがありませんでした。

 そして、そのまま、無言で駆けること数分。


「……いた!」


 声を上げたゲンブ様の先にいたのは、遠目にも輝いて見える長く美しい黒髪の少女と、それを追い詰めるレッドオーガでした。


「赤鬼……! 討伐レベルは確か……」

「グロンブーツ王国では、Bクラス。上級冒険者でも少人数では無傷では厳しい相手です」


 先程の小鬼と呼ばれたゴブリンとは格が違う相手。

 いやが応にも緊張感が高まります。


「ヴィオラ殿……! この袋をお渡しします。 私は前衛職のサムライ故、ヤツを引きつけておきますので、この白馬でさやを連れてお逃げください」

「ですが、それでは、ゲンブ様が……」

「頼みます!」


 ゲンブ様はそう仰ると、回り込むよう指示した白馬から飛び降り、大声で威嚇しながら、赤鬼をさや様から引き離そうと逆側に回り意識を向けさせます。

 赤鬼は突如現れた武器を持った男に当然意識を向けざるを得なくなり、さや様に背を向ける形に。


 私は、白馬に命じ、さや様の元へ。さや様は大柄なゲンブ様とは違い、とても細くお人形のような方。ゲンブ様と赤鬼の戦闘を心配そうに見つめていらっしゃいます。


「サヤ様、ご無事ですか?」

「え? あ、あなたは?」

「細かい事は置いといて。ゲンブ様と共に貴女を救いに来たものです。さあ、手を!」

「は、はい……」


 あまりにも怖かったのでしょう。少し息が荒いさや様を後ろに乗せ、ゲンブ様の方を見ると、


「ぐ、ぐあ……!」

「ゲンブ様……!」


 ゲンブ様が赤鬼の金棒を必死で受け止めながらも苦しそうに呻いていらっしゃるではありませんか!

 そして、見ればゲンブ様の身体には何か黒い紋様が……。


「ああ……呪印が。アレさえなければ、兄様なら、あんな魔物……!」


 どうやら呪いの類いのようですが、今はそれどころではありません!

 赤鬼がゲンブ様の脇腹に膝を入れ、勝ち誇ったように笑います。

 その笑みが、私のグロンブーツ王国で向けられたあの厭らしい王子たちの笑みに重なり、


「……掴まっていてくださいね、サヤ様」

「え?」


 私は怒りのままに白馬を走らせ赤鬼へと向かっていきます。

 身体から溢れてくる魔力を白馬に注いでいくと白馬はどんどんと速度を上げ、さらに、赤鬼よりも立派な角を生やし、


「ええええええええええええええええええええ!?」


 サヤ様の叫びも風のような速さでほとんど後ろへと流れていきますが、流石に赤鬼は気づいたようでこちらを向くと、目を見開き、


「ゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」


 どてっぱらを貫かれ、大木へと叩きつけられてしまいましたわ。


「私ったら、つい我を忘れて……さや様、大丈夫でしたか?」

「ひゃ、ひゃい、たいへんりりしくて、あにょ、しゅてきでごじゃいました……」


 顔を真っ赤にして目を回すサヤ様。

 赤鬼にやられたのか、黒い紋様のせいか気を失っているゲンブ様。

 そして、虫の息の赤鬼。


 えーと、どういたしましょう……。


 そう思っていたら、


「ぜえ、ぜえ……シ、シノビより早く走るなよう!」


 ヤスケ殿が息を切らせてやってきてくださいました。

 後始末はおまかせしましょう。

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