第2話 オンミョージという謎の天職で追放、いとわろし・その二

「ヴィオラ・ディフォルツァ! 四大属性魔法を使いこなせない我が一族の落ちこぼれでありながら、謀反を企むとは! 王子との婚約は破棄、そして、この国を去るがいい!」


 そう仰ったのは、私の父、ロレンツ・ディフォルツァ。


 そう、私は落ちこぼれでした。

 いえ、生まれた頃から暫くはそうではありませんでした。


 金髪碧眼が美しく、魔力も高かった私は、将来を期待され、王子の婚約者となったのでした。

 ところが、魔法を学問として学び、使っていく段階で、大きく躓いてしまったのです。


 私には四大魔法がどうしてもうまく理解できなかった。

 火、水、土、風。

 それが世界を構成する四大属性であり、魔法の基礎。

 それを理解することで魔法は使用できる。


 なのに、私には、『1たす1がなぜ2になるのか?』というレベルでうまく理解できず、無理矢理覚え込むようになった結果、自分の強大な魔力をコントロールできず、最後には魔法の使用禁止を命じられてしまいました。


 そして、更に15歳で迎える、自身にあった強力な才能を与えられる天職ジョブの儀式では、


『ヴィオラ・ディフォルツァ様! 貴方に神から与えられた天職は、天職、は……えー、あのー、【オンミョージ】です!』

『オンミョージ!? なんだ、そのわけのわからんものは!?』


 私の天職は【オンミョージ】。グロンブーツ王国始まって以来聞いたこともない天職で、その才能の活かし方も分からず、腫物扱いされることとなってしまいました。


 そして、極めつけは、


『大変です! 旦那様! ヴィオラお嬢様の髪に、黒髪が! 混じり始めたのです!』


 黒髪自体は、珍しくはあっても不思議ではありません。ですが、私の場合、金色だった髪に黒一筋混じり始めたのです。


 そして、私は、悪魔の子と呼ばれるようになりました。




 なので、私個人としては、こうなることは予想がついていました。

 今日のパーティーが開かれた意味が時期的によくわかりませんでしたし、私に一切情報が入ってきていなかったので。

 しかも、謀反の罪であれば、私が知らぬ存ぜぬを通しても、偽の味方を立てられて捏造された証拠を出していってのごり押しできそうですし。

 処刑にならないのは、私のこの一筋の黒髪を恐れてでしょうね。

 もし本当に悪魔の血を引いていれば、処刑を下したことで呪いが降りかかるかもしれないから。


 婚約者、であったはずのアレク王子も笑っています。

 口煩く色々言っていたせいでしょうか。


 妹のアリアが悲しそうな振りをしています。

 アリアは可愛げのある雰囲気ですからアレク様好みですしきっと私の代わりとなるのでしょう。


 まあ、それ以外の方たちの反応も理由は心当たりが多すぎるので、考えても仕方ありませんね。


 私は口を開きます。


「かしこまりました。では、それは一旦置いといて。……今後のグロンブーツ王国の」

「「「「「いやいやいやいや!」」」」


 全員からツッコミが入りましたわ。


 アレク王子が髪を乱しながら指をさして叫びます。


「追放なんだぞ! それを置いといてってなんだお前は!?」

「いや、なんだお前はと言われましても……追放はかしこまりました。ですが、私がいなくなった後のグロンブーツ王国の事を考えれば」


 私は魔法が使えない。なので、それ以外の部分で色々フォローしてきたつもりだったのですが。


「お姉さま! あなたはもうこの国には必要ないと言ってるんです! さっさと出て行って下さらない?」

「わかったわ。では、それは置いといて。お父様、我が家について」

「「「「「「いやいやいや!」」」」」


 全員からツッコミが入りましたわ。

 そして、お父様がなんだコイツはのような顔をされて仰います。


「お前はもう追放なんだ! 何故我が家の事を心配する」

「我が家には使用人が沢山居ます。彼らを養っていくためには。引継ぎを……」

「主は私だ! 私が一番理解している!」


 私は魔法が使えない。なので、家でもそれ以外の部分でフォローしていたつもりだったのですが。


「かしこまりました。では、それは置いといて」

「まだあるのか!?」


 私は、魔力を解放します。

 魔法を使う際には、魔力を操作する必要がありますが、解放するだけであれば、空気が変わる程度。とはいえ、私の魔力量であれば、魔力のない方には大分息苦しいかもしれません。

 アレク王子でさえ、汗が止まらないようですから。


「この場にお集りの皆さま。今までどうもありがとうございました。そして、グロンブーツ王国の民が笑って過ごせる国造りをよろしくお願いしますね」


 私は『別れの挨拶』を終えると、その場を後にします。


「おいで、ヨーリ」


 そう告げると、人に化けていたペットであるヨーリが元に戻ってとんできます。


「ぽぽーん」

「ごはんはいっぱい食べれたかしら? じゃあ、行きましょうか」


 声を発する者は誰もいませんでした。

 こうして、私はグロンブーツ王国を追放され、なんやかんやあって異国ジパングへと辿り着いたのでした。

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