41年目
夏の暑い日、エアコンのかかった部屋の中で、ユウ君はパソコンに向かいます。
【ニートワイ 家族に追い出し屋を呼ばれるが無事帰還】
ネットの匿名掲示板に、スレ立てしていました。
1:朝起きたら、マッチョに羽交い絞めにされて追い出された
2:戸〇か?
3:車に詰め込まれて離れた場所に放り出された
4:施設ちゃうんか
5:歩いて帰るにはしんどいとこに捨ててかれたンゴ
自分の経験談を意気揚々と書き込んでいます。
15:そんで、どうにか家に帰ってきたんや
そう、ユウ君は去年、本当に追い出し屋を呼ばれて引っ張り出されてしまったんです。
それを嬉々として書き込んでいます。
恥ずかしいことなんだけどね?
19:家に入ったら、ふざけんなよって言ってやったわwww
自分勝手に産んだ子供の面倒くらい最後まで見ろってなwww
う~ん、ろくでもない感じがありありと出ているね。
掲示板の中では「働けニート」とか「ニートは34歳まで定期」とか「イッチクズやん」とか、いろいろ書き込まれていますが、その辺は完全スルーしています。
尚、実際に去年の様子はこんなです。
朝起きたら、ラグビー選手みたいな男の人が二人いて、わーわー
視線の先には険しい表情のお父さんと、居たたまれなさに手で口元を覆うお母さんの姿が。
どういうことだよ、と騒ぎ、しかしその表情の意味に気づいて、働くから、わかったからって叫んだものの、お父さんはただ見送るだけでした。
そのまま車に押し込まれ、走ること1時間。
よく知らない場所に放り出されました。
マッチョたちからは、「実家には戻るなよ!!」って言われて、「は、はぃっ」 って声を上げたユウ君。
車はすぐに走り出しました。
更生施設に入れるわけじゃなくて、部屋から引きずり出して離れた場所に放り出す、リーズナブルな業者さんみたいです。
しかし、かなり荒療治です。
着の身着のまま、おサイフも持ってきていません。
持っていたとしても、116円しか入ってないけどね。
でも、こうして部屋から叩き出されて、これがお父さんとお母さんの意思だと知った今、ユウ君は自分から動き出さなければなりません。
幸い、この場所はド田舎ではありません。
チラチラと不審な目で見てくる人がいるくらい、人通りがあり、周囲の飲食店にはアルバイト募集中の文字が。
あ、住み込みありって書いてあるやつが…!
ユウ君、チャンス!
ですが、それらが目に入っているにも関わらず、ユウ君は動き出しません。
炎天下、30分くらい何かを悩んだ後、年季の入ったスマホを取り出して、コンビニのWiFiをつかんで地図を表示。
ふらふらと、歩き出しました。
見も知らぬ土地で、35℃の気温で汗ダラダラで、目指す先は、お家です。
え、追い出されたのに、帰るつもりなの!?
しかも、めちゃくちゃ遠いよ!?
10分もしないうちに足がいたくなって、休んでも暑くて嫌になり、涙が出てきちゃって、でも泣いても誰も助けてくれません。
むしろ、汗と涙と鼻水で汚れたオジサンの姿に引いています。
まるで十戒みたいに。
ユウ君は歩き続けました。
その一歩はとても弱々しくしいですが、歯を食いしばって、休憩を挟みながら、何時間も歩き続けました。
いっそ働いた方がまだ楽かもしれないくらい、変なところで頑張ります。
公園の蛇口から、温かくなった水を飲んで。
催したら、コンビニのトイレだけ借りて、ついでにWiFiつかんで現在位置を確認して針路を修正して。
暑さと疲労と空腹にイライラしながら。
歩き続けるうちに日が傾き、下校中の小学生にケラケラと笑われ、中高生にヒソヒソ指差され、日が暮れてからはサラリーマンに変なものを見る目で見られ、満身創痍の状態で夜の住宅街を進みました。
残業終わりの女性から不審者と警戒され、夜の散歩中の犬に吠えられながら、やっと見知った場所に出ました。
そしてついに――
「ユウッ!?」
家に辿り着き、驚くお母さんを押しのけて、ユウ君は洗面所に駆け込んで水をジャージャー流して水浸しにしながら水を飲み、チラッと視界に収めたリビングに置いてあった菓子パンをつかんで2階の自室に飛び込みました。
テレビを見ていたお父さんがびっくりして反応できないくらいの早業でした。
鍵をかけて、エアコンをつけて、パンを頬張り、廊下で騒ぐ両親を無視して、ユウ君はベットに倒れ込みました。
そして翌日、まだ冷めやらぬ激情を、ネット掲示板にぶちまけるのでした。
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