39年目

 お正月です。


 元旦です。


 神在月家にやってきたナオちゃん夫婦と娘のサキちゃんが、一階の客間からリビングに入り、


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 すでに起床していたお父さんとお母さんに挨拶します。


「ことしもよろしくおねがいします」


 サキちゃんも、ご両親を見よう見まねで挨拶し、それを見たお父さんもお母さんは「はい、よろしくお願いします」ってにこやかに新年の挨拶を返します。


 と、そこへ、ユウ君(高校のジャージ装備)が顔を出します。


 珍しく顔を見せましたが、実はお父さんから「正月くらい一階に降りてこないと食事は無しだ」と厳しく言われたので、しょうがなく自分の部屋から出てきたみたいです。


「あけまして、おめでとうございます」


 サキちゃんは、ユウ君にもしっかり挨拶します。


「……」


 ほら、ユウ君。ちゃんと挨拶しないと。


 小学校一年生のサキちゃんが挨拶したんだから。


「……まぁ、別にめでたくねぇけど」


 ぼそっと呟きます。


「おい、優っ」


「まぁまぁ、お義父とうさん」


 ナオちゃんの旦那さんが、ユウ君のお父さんをなだめました。


「お義兄にいさん、今年もよろしくお願いします」


 それに加え、ユウ君に爽やかに挨拶をします。


 さすが、ナオちゃんの旦那さんです。できた人です。


「……、はぁ、ども、です…」

 でも、ユウ君は相変わらずぶすっとした表情です。


 なんとも微妙な空気になってしまいました。


「あ、じゃぁ、ほら、サキちゃん、これ」


 その空気をなんとかしようと、お母さんは慌ててポチ袋を取り出しました。


「はい、サキちゃん。おじいちゃんと、おばあちゃんから、お年玉」


「わぁ…っ、ありがとうございますっ」


 ぺこりとお辞儀をして、サキちゃんがお礼を言います。


「すみません、ランドセルだって用意してもらったのに」


「いや、気にしないでくれ。老人の楽しみみたいなものだからね」


 かしこまるナオちゃんの旦那さんと、お父さんの笑い声。


 その隣では――


「……」


 こら、ユウ君、もの欲しそうな目はやめて。

 いくらお金がないからって。

 ユウ君、もう40歳手前だよ?お年玉なんて貰えるわけないでしょ?


 と、お母さんがユウ君を廊下まで引っ張っていきました。


 なんだろう?


 廊下に出ると、お母さんはユウ君にポチ袋を渡しました。


 え?まさか、お年玉?


「サキちゃんに渡して。おじさんからだよって」


 あ、そういうことか。


 スーパーのアルバイトのお金も使い切っちゃって手持ちのないユウ君、当然お年玉をあげるなんてことはできません。

 でも、ここでユウ君からサキちゃんへのお年玉がないなんて、ちょっと格好がつきません。

 お母さんなりの気遣いです。


 中身を見ると、千円札が3枚入っていました。

 さっきサキちゃんが受け取ったのも3,000円だったので、同じ金額です。


 お母さんはすぐにリビングに戻りました。


「……」


 ユウ君は、ポチ袋の中から1枚だけお札を抜いて、ポケットにねじ込みます。


 ちょっと何してるの⁉


 ユウ君、遅れてリビングに戻ってから、


「……ほら」


「おじさん、ありがとうございますっ」


 渡されたポチ袋を受け取り、ぺこりとお辞儀をするサキちゃん。

 

 ユウ君、ちょっと嬉しそうに顔が緩みますが、すぐにぶっきらぼうになります。


「大事に使えよ」


「はいっ」


「お義兄にいさんも、わざわざすみません」


「……」


 サキちゃんはニコニコ、旦那さんは少し畏まって、ナオちゃんは不審な目を、それぞれユウ君に向けました。


 ユウ君、姪っ子用のお年玉をちょろまかすなんて、そんな情けないことやめて~!


 ちょっとだけ罪悪感を抱きながらも、ユウ君はこの1,000円で何をしようかなと考えるのでした。

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