29年目
「おはようございます……、……え……?」
会社に行き、蚊の鳴くような声であいさつすると、ユウ君は固まりました。
自分のデスクがなくなっていました。
「お前役立たずなんだからいらねぇだろ」
隣に座る先輩が、舌打ちしながら言いました。
「来たって仕事ねぇから帰れよ」
困ったことあったら声かけてくれって、異動初日に言ってくれたベテラン社員が、ゴミでも見るような目で言いました。
「神在月君いると、迷惑だからさ、さっさと退職願を用意してね」
いつも気遣ってくれていた課長が、ユウ君に退職願のフォーマット用紙を押し付けました。
「そんな……、俺……、俺はっ……」
ユウ君は項垂れて、目頭を熱くします。
「っっっ――――――!!」
ユウ君はベッドの上で跳ね起きました。
さっきまでのことは、全部夢です。
ほっとして、ユウ君は額の汗を拭いました。
「もう、いやだ……」
震える声で、呟きます。
「もう、死ぬ……」
そんなことを口ずさみました。
ユウ君、死ぬなんて言わないで。悲しいよ。
「ユウ、おはよう。だいじょうぶ?」
お母さんは心配してご飯を持ってくるたびに声をかけてくれますが、ユウ君はお母さんに心配をかけていることが苦しくて、惨めになって、また泣きそうになってしまいます。
泣かないで、ユウ君。
こっちまで悲しくなっちゃうよ。
お昼を超えても、ユウ君はお布団を被っています。
丸まったまま、スマホをぼーっち眺めています。
そんなとき、ある記事を見かけました。
『生きにくいあなたへ』
それは、ユウ君みたいに仕事のことで悩んだり、学校でいじめられて辛い思いをしていたり、辛い苦しいと思っている人に向けたメッセージでした。
そこには、思い詰めないで、だいじょうぶだよ、君は悪くないよ。
そんな言葉が並んでいました。
「俺、がんばったよな…?がんばったんだから、努力もしたんだから、悪くないよな…?」
ユウ君は布団の中で、何度も何度も繰り返し、自分に言い聞かせました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます