28年目

 ユウ君、今日も会社をお休みです。


 お母さんはユウ君の体調を気にしていますが、声をかけても「だいじょうぶ」としか返ってこないので、部屋の中にいるユウ君のためにご飯を作ってドアの前に置いておくことしかできません。


 もう、会社に出勤する日よりも、休む日の方が多くなってきました。


 これまでは責任ある仕事にうんざりしていたユウ君ですが、休みが続くようになってからは、簡単な作業くらいしかしなくなりました。


 先週会社に行った時は、


「神在月って、マジで仕事しねぇよな」


 陰でこそこそ言われていることに気づきました。


「ほとんど来ねぇから、有給使い果たして病休入れてるって」


「休みばっかりなら仕事任せらんねぇし、いつ来るかもわかんねぇから雑務すらさせられねぇしなぁ」


「総括グループ、みんな60時間の組合協議出してるってさ」


「え?なんで」


「そりゃ、神在月が持ってたものを総括3人でやるためだろ」


「うわ、えっぐ~。いっそやめりゃいいのに」


「やめたって補充来ねぇだろ。一番はさっさと異動させることだろ」


 そんな会話を聞いた後、午後一番に体調不良で早退を申し出ました。


「お先に失礼します…」


 蚊の泣くような声でのあいさつに、誰も反応はしませんでした。





 そんなことがあり、ユウ君は絶賛引きこもり中です。


 もう今更会社には行きたくないと、陰口を思い出して怖くなって、お布団に包まる日が続いていました。


 お父さんはよく「どういうことだ!」ってユウ君のお部屋に怒鳴りに行きますが、休みの日は部屋に鍵をかけてずっとこもるようになりました。


 外からの音を、お布団で遮断して、うずくまって、ただ時間が過ぎるのを待ちます。


 せめてもの救いは、ナオちゃんがこのことを知らないことでしょうか。


 ナオちゃん、独り暮らしするために実家を出ていました。


 まだユウ君が会社に行っている日の方が多かった頃だったので、こんな震えてうずくまるお兄ちゃんの姿を見ていないはずです。


 だからさ、ユウ君。


 早く立ち直って、ナオちゃんの前ではかっこいいお兄ちゃんでいてあげて?


 お願いね、ユウ君。

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