27年目
ユウ君の苦労は続きます。
とある電話会議でのこと。
『すみません、それってやる意味あります?あんまりにも現場の実情と離れている気がしてるんですが』
本社から降りてきた新規施策の説明をしたところ、現場部署からダメ出しを受けてしまいました。
それを本社に確認したところ、
『そこの稼働が大きなウェイトを占めていないのはわかっています。ですが、一番労力をかけずに効率化できる部分なので、まずは初年でトライアルから初めて――』
説明を聞くうちに納得して、再度現場に説明をしますが、
『いや、だからそこは困っていないっていうか、現地業務のもっとメス入れる部分あると思うんですよ。逆に混乱ばかりが大きくなるので――』
こんなことが何度も続き、ユウ君はげんなりです。
もう嫌だ、が口癖になってきました。
また別の日、設備部長表彰の取りまとめをすることになったユウ君ですが、『表彰候補となるような案件を出してください』と依頼を出しても現場部署からは何のリアクションもなかったので、嫌だな~、と思いつつ直接電話してみることに。
すると、
『そんなことしてる稼働ないよ!毎日汗だくで現場回ってるんだから、そんなへとへとの人間捕まえて「改善案出せ」とか言うの?』
「あ、いえ、すみません……」
怒鳴られちゃいました。
そんな日々が続いてくると、さすがに堪えます。
ある朝、目が覚めても、頭が重くて起き上がることができなくなりました。
今日は金曜日。会社に行かなければなりません。
でも、ベッドから起き上がることができないんです。
「あ、れ…?」
起き上がろうとすると気持ち悪くなり、またベッドに倒れます。
「ユウ、起きなくていいの?」
いつもなら朝食に降りてくる時間になっても来ないユウ君を心配して、お母さんが部屋に来ました。
「具合、悪いの…?」
「うん、なんか、気持ち悪くて…」
「病院行く?」
「ううん、ちょっと寝てる…」
「そう…。何かあったら言ってね?」
そう言って、お母さんは部屋から出ていきました。
少しして、気づくと、もう家を出る時間を過ぎていました。
もうこれから準備して家を出ても、会社には遅刻してしまう時間です。
仕事のことを思うと、胸が締め付けられるようで、苦しくなります。
でも、会社には連絡を入れなければなりません。
何か言われるかな。
怒られるかな。
そんな不安を抱えながら、スマートフォンを握り締め、しばらく固まります。
30分くらいして、意を決して会社に電話をかけます。
『はい、企画担当です』
「あ、すみません、神在月です…」
『あ、神在月さん?どうしました?』
電話に出たのは企画担当にいる派遣社員でした。
「課長、いますか?」
『ちょっと待ってください……、あ、来ました。代わりますね』
ユウ君の重い気持ちとは裏腹に、保留音のカノンが軽快に流れます。
10秒くらいの保留音が、すごく長く感じます。
『吉田です。神在月君、どうした?』
「あ、課長、おはようございます。すみません、ちょっと体調が悪くて……」
『え?大丈夫?体は動く?独り暮らしだっけ?』
ユウ君の不安に反し、課長はすごく心配そうに聞いてくれました。
「実家なので、母がいます」
『そっか。看病とかは大丈夫だね。最近忙しくて疲れも溜まってるだろうし、こっちは気にせずにゆっくりしなよ。金曜日だしね。休みも余ってたでしょ』
「はい、ご迷惑おかけします……」
『迷惑じゃないから大丈夫だよ。お大事にね』
「はい、すみません、失礼します……」
電話が切れると、ユウ君はほっとしました。
課長の『迷惑じゃないから』っていう優しい言葉が胸に染みました。
罪悪感が少し薄れました。
心なしか、さっきまで感じた頭痛や倦怠感も和らいだ気がします。
ユウ君、最近お仕事大変だったもんね。
今日はゆっくり休んで、来週からまたがんばろう!
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