25年目
「直ってほっとしました~、ありがとうございます~」
「いえ、こちらこそご不便おかけしました。何か気になることがあれば、ご連絡ください」
作業着姿のユウ君が、団地の一室から大きなバッグを持って出てきました。
電話やインターネットの故障で困っているお客さんのところに行って修理するのが今のお仕事です。
最初は先輩に同行して仕事を覚え、途中からは一人で現場に出るようになり、2年目の今は隣に後輩を連れて、主業務の故障修理に
経験を重ねたので、もう電柱に昇るのも怖くありません。
一日中外に出ているので、夏は汗だく冬は震えながらのお仕事です。
大変だ~。
「ちょっと休憩しよう」
お客さんの家から少し離れて、後輩とコンビニに入ります。
ユウ君は缶コーヒー、後輩の男の子は炭酸飲料のペットボトルを手に取ります。
「払ってくるから」
そう言って、後輩からペットボトルを受け取ります。
「ありがとうございますっ」
後輩もお礼を言います。
お、ユウ君、後輩にジュースをおごってあげるんだね?
なんか先輩っぽいかも。
そんな先輩風うぃ吹かすユウ君ですが、つらい日もあります。
「まだ直んないの?」
電話が使えないというお客さんのところに修理に来ています。
午後一番に作業を始めましたが、4時を回ってもまだ直りません。
現場は小さな会社で、電話が一切使えないみたい。
お客さん、すごく困っています。
というか、すごくイライラしています。
一切電話が使えないので、もし電話がかかってきたとしても、それに出ることができないのですから。
仕事の依頼はすべて電話で来るらしいので、電話が使えない時間は丸々損失時間になると、お客さんはユウ君に口酸っぱく言ってきます。
ユウ君、必死に電話機のマニュアルを広げますが、どうしても直りません。
隣にいる後輩も、どうすればいいのかわからずに、ただ立ち尽くすだけです。
そんな時、ユウ君の業務用携帯電話が鳴りました。
『お疲れー。こっち終わったけど、そっちはまだやってる?』
近所で別の故障修理を担当している先輩からでした。
「あ、すみません、ちょっと嵌まっちゃって……」
『何?ビジだっけ?KT一台不可じゃなかったっけ?』
「いえ、そう聞いてたんですが、実は全台不可みたいで…」
『MJは?実は外線故障とか』
「MJまでは発信音来ます…」
『ME下部か…。俺行くよ。近くだし。多分10分かからないと思う』
「すみません、お願いします…」
どうやら先輩がヘルプに来てくれるみたいです。
それからはあっさりでした。
先輩が来たら、20分くらいで直ってしまいました。
すごく単純な故障原因でした。
お客さんに説明した後、
「あんたに来てもらえばよかったな」
そんな風に、お客さんに言われてしまいました。
「っていうか、最初っから直せる人来てよ」
そんな言葉が、ユウ君の胸にぐっさりと刺さりました。
「ユウ、どうかした?」
夕食の場で、落ち込んでいるユウ君に気づいたお母さんが声をかけます。
「ちょっとさ…」
ユウ君は仕事での失敗を話しました。
「大変だったね」
お母さん、職場でのユウ君が心配みたいです。
「仕事なんだから、つらいことくらいある」
今日はお父さんも一緒です。
ビールを飲みながら、ユウ君の苦労話を聞いていたお父さんが言いました。
「それも経験だ。現場を知らないと、上に行った時苦労するぞ」
お父さんは「それは必要な経験だ」と言います。
失敗したと思うならば、どうすれば改善できるか考えて実行しろ、とも。
「うん…」
ユウ君はお酒が弱くて飲めません。
なので、もそもそと、夕ご飯を口に運びます。
ナオちゃんはというと、今日も遅くまで帰ってきそうにありません。
三人の食卓で、ちょっとだけ自信をなくしたユウ君は「明日は大丈夫かな」と思いながら、夕飯を済ませます。
お風呂に入った後、自分の部屋でパソコンを立ち上げて、大学時代に健司君から教わったインターネットの掲示板を見ます。
そこで、仕事で失敗したという話を見つけて、同じ悩みを持っている人がいると知り、自分だけがダメじゃないんだと、安心しました。
くじけないで、ユウ君!
ガンバレ、ユウ君!
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