23年目
奇跡が起きました。
ユウ君に、お友達ができました。
同じ研究室に所属することになった、同い年で、大学5年目という部分も同じ、男の子です。
板垣健司君。
ユウ君はアニメが好きで、健司君ともその話で盛り上がり、いつしか互いの家にも上がることになりました。
「友達連れてきたから」
健司君が、ユウ君を家に連れてきたときに彼のお母さんに言った言葉。
健司君は何気なく言ったのかもしれませんが、ユウ君は「友達」という言葉が嬉しくて、ちょっと泣いちゃいそうでした。
自分は健司君の友達なんだって、それを聞くことができて、すごく舞い上がりました。
健司君はユウ君の知らないことをたくさん教えてくれました。
インターネット掲示板のことや、音楽やゲームの割り方など。
……ところで、割るってなんだろう?
それはともかく、ひとりぼっちだったユウ君に友達ができたのは朗報です。
毎日研究室に顔を出し、少しずつ研究内容に関係する英語の論文を翻訳して、難しい数式も友達と確認し合って、互いに励まし合って、たまにお酒を呑んで。
辛いとさえ思っていた大学生活が、少しずつ楽しくなっていくのを、ユウ君は感じていました。
よかったね、ユウ君。
ですが、楽しいことばかりではありません。
ユウ君は今年度、大学を卒業予定です。
その先に待つもの。
目を背けてはならない、就活です。
ユウ君、7月になってもまだ内定が出ていません。
NNTです。
同じ研究室のみんなは内定をもらっています。しかも大手です。
でも、ユウ君は大手どころか手持ちの内定は皆無です。
NNTです。
書類審査で、半分以上落ちました。
筆記試験で、さらに半分が落ちました。
一次面接で、残りのほとんどが落ちました。
二次面接で、全滅です。
大学では一生懸命勉強して、でも単位が足りなくて、わからないところを聞いたり情報をもらえる友達もいなかったユウ君。
サークル活動も、勉強に集中しようと思って入っていませんでした。
アルバイトも、黙々とがんばっていましたが、それ以上の説明ができる成果は何も出てきません。
そう、ユウ君は成績もイマイチで、学生時代に力を入れたこと、いわゆるガクチカもない、ナイナイ学生だったのです。
ああ、そりゃぁNNTだよユウ君。
だんだんと、就活が苦しくなってくるユウ君。
面接が怖くて仕方ありません。
でも、ここが踏ん張りどころだよ?
がんばれ、ユウ君!
ということで、どうにか死力を尽くしたユウ君は、大学の先生のコネとお父さんの上司のコネを最大限活用し、どうにか大手通信会社――の子会社から内定をもらうことに成功しました。
9月半ば、大学の後期直前のことでした。
ユウ君、なんとか無職コースは逃れたようです。
「なんとか大原さんに頼んで入れてもらった会社だ。しっかりがんばるんだぞ」
内定をもらったことをお父さんとお母さんに報告すると、お父さんからそう言われました。
大原さんというのは、お父さんがすごくお世話になった元上司です。
「わかってる……」
できれば、おめでとうと、とか、がんばったな、って言ってほしかったけど、ユウ君は歯を食いしばって答えました。
「ユウおめでとう!お祝いしないとね」
対照的に、お母さんは自分のことのようにすごく嬉しそうに祝ってくれました。
ユウ君は照れ臭そうですが、お母さんの喜び様と、もうあんな苦しい就活をしなくてもいいという解放感から、自分の部屋に戻ってからは自然と笑顔になりました。
それからの大学生活はあっという間でした。
後期の授業は何もなくて、研究室に毎日行って、卒研に注力です。
年が明けて、
緊張しながら大学の講堂で卒業研究発表をして、
卒業式を迎えて、その夜に研究室のみんなで打ち上げをして。
こうして、なんとかユウ君は大学を無事卒業し、社会人へと踏み出すのでした。
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