18年目

 ユウ君は高校三年生。

 もう大学受験シーズンです。


 去年の冬は妹のナオちゃんが高校受験でバタバタしていて、ユウ君はナオちゃんが苦手な英語を中心に、勉強を教えてあげていました。


 今度はユウ君の番です。


 でも、ユウ君は慌てていません。


 なぜなら、もう付属大学の推薦で合格をもらっているからです。


 いわゆる付属校推薦です。

 

 ユウ君の高校は、付属校の生徒が一斉に受ける付属校統一テストの成績を一定以上取らないと、付属大学の願書を出すことができません。


 しかし、そこはさすがのユウ君です。


 評定平均4.7なんです!

 普段の努力の成果です!


 なので、統一テストを受ける前に好きな学部・学科に願書を出せる推薦方式を勝ち取っていたんです!


 まだ11月なのに、ユウ君は大学への切符を手にしているんです!


 すごいぞ、ユウ君!


 一般受験する同級生に、ちょっと優越感です。



 そんな、浮かれた気分のユウ君が帰宅した、ある日のことです。


「ねぇ、ユウ、知ってる?」


 お母さんが、尋ねました。


「タイ君ね、高校卒業したら、タイ君のお父さんの会社に入るんだって」


「え?」


 ユウ君、ちょっと驚きました。


 だって、自分は大学に推薦で行くことが決まっていて、周りの同級生もみんな大学進学なのに。

 大学は普通に行くものだと思っていたユウ君には、高校を卒業して就職するということが、とても信じられませんでした。


 タイ君とは、中学卒業から会っていません。

 小学校卒業してからは特に会ってもいませんでしたが、たまにすれ違った時に挨拶する程度になり、高校入学からは、別々の学校ということもあり、顔を合わせることはなくなってしまったんです。


 ユウ君の脳裏に、小さい頃の記憶が蘇ります。


 タイ君と遊んだ記憶です。


 いつも元気いっぱいで、一緒に遊んでくれたタイ君。


 タイ君のお父さんは、たしか建設会社の社長さんです。


(でも、下請け会社だって言ってたし)


 ユウ君は、タイ君がちょっとかわいそうだなと思いました。


 大学に行けないくらい、お金がないのかなって。


(やっぱ、3Kだもんな)


 そんな風に思いました。


 ユウ君、そんなこと思っちゃだめだよ?


 立派なお仕事だよ?


 でも、ユウ君は考えることをやめません。


 去年、ホームレスのおじさんを見た時のことを、思い出しました。


(俺は、大学に行って、一流企業に就職するんだ。負け組になんてならないぞ)


 そう思いながら、ユウ君は残り少ない高校生活を過ごしました。

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