17年目

 毎日、ユウ君の帰りが遅い日が続きます。


 文化祭です。その準備で毎日大忙しです。


 10月の涼しくなった放課後、クラスのみんなで看板を作ったり、メニュー表を作ったり。

 職員室のコピーを使って、先生に怒られて走って戻ってきたり。


 騒がしくも楽しい、充実した日々を、ユウ君は過ごしていました。


 中学校時代のお友達にも、文化祭来てねって、連絡しています。

 なにせユウ君、高校二年生になって、携帯電話を買ってもらったんです。

 最新機種です。

 電車で会ったお友達と、連絡先を交換していました。


 ナオちゃんからは「いいなー、お母さん、あたしもほしー」ってせがんでいましたが、「ナオにはまだ早いの。高校入ったらね」って言われてしまいました。

 ユウ君、ナオちゃんにちょっと優越感です。



 さて、そんなウキウキのユウ君ですが、帰りにちょっと寄り道をしました。

 参考書を買うためです。


 普段はあまり通らない道でしたが、大きな本屋さんでお目当ての本をゲットです。

 文化際の準備期間中でも、しっかり勉強はしています。

 

 えらいぞ、ユウ君!


 そんなユウ君の視界に、ある人物が映り込みました。


 歩道橋の階段の下で、段ボールを敷いて、その上におじさんが座っています。


 多分、ホームレスです。

 トレーナーは薄汚れていて、ヒゲは伸びっ放しで、スーパーに売ってるジャムパンをもそもそと食べていました。


「やだ、ホームレスよ」

 通りかかったおばさんが、汚いものを見る目で呟きました。


「うわ、きったねー」

 部活帰りの男子中学生が、指差し笑います。


「マジありえねーし、ってかこっち見た、キモッ」

「早く行こっ」

 女子高校生二人組が、囁き笑い、足早に通り過ぎます。


 ユウ君も、あんまり見たいものではなかったので、女子高生と同じように足早に去ろうとします。


「おい、ボウス」


 そのとき、ホームレスのおじさんから声をかけられてしまいました。


 思わず、足を止めてしまいます。


 固まっているユウ君に、おじさんは言いました。


「頑張れよ。ちゃんと頑張んねーと、おじさんみたいになっちまうからな」


 それだけ言って、おじさんはまたパンをもそもそ食べました。


 ユウ君は、逃げるようにお家に急ぎました。


(言われなくても)


 ユウ君は思いました。


 ぜったいに、あんなふうにはならないって。

 そのために、毎日勉強をがんばってるんだから。


 いい学校に行って、たくさん勉強して、いい会社に入るんだって、ずっと思っていました。


 だから、買ったばかりの参考書を握り締めて、家路を急ぎました。





 そんなことも忘れたころ、ついに文化祭当日です。


 ユウ君のクラスは、アイス屋さんです。


 10月になっても、日中はまだ暑いこともあるので、それなりに売れていきました。


 ユウ君も、がんばってアイスをすくってカップに載せていきます。


 何人か友達も来てくれて、ユウ君、すっごく嬉しそう。


 その中のひとり、中学三年生の時のクラスメイトが、女の子を連れてやってきました。

 多分彼女さんでしょう。


「蓮君の友達、第一って、頭いいんだね」

「ああ、コイツ、テストで結構上位だったしな」


 友達の彼女さんからすごいって言われて、ユウ君、ちょっと照れました。


「じゃぁな」

「うん、楽しんでいって」


 去り際に友達と挨拶して、ユウ君はその後姿を見送ります。


 あれ、ユウ君どうしたの?


 あ、わかった。

 友達が羨ましいんだね?

 彼女、欲しいんだね?


 ユウ君、ずっと勉強ばっかりで、これまで彼女なんていたことないもんね。


 小学校の卒業式で一緒に写真を撮った中井さんとは中学卒業以来会っていないし、ナオちゃんの友達の「神在月先輩かっこいい」って言ってたっていう子も、会ったことないし。


 さっきアイス渡してたときも、ちょっとドキドキしてたもんね?


 でも、大丈夫だよ。


 きっと、ユウ君にもかわいい彼女ができるようになるから。


 だから、今は精一杯アイス屋さんやろう?


 ガンバッ、ユウ君!

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