15年目

 全校集会で、ユウ君と同級生、後輩合わせて10人、体育館の壇上に並んでいます。


 見で開かれる、駅伝大会の壮行会です。


 ユウ君は全校生徒の前で、緊張しながらしゃべります。


「八区を走る、神在月です。練習はずっと辛くて、やめたいと何度も思っていましたが、なんとかここまでくることができました。大会では、全力でがんばります!」


 思い切って、しゃべりました。


 パチパチパチパチ――!!

  パチパチパチパチ――!!

   パチパチパチパチ――!!


 全校生徒の盛大な拍手が起こりました。


 ユウ君、嬉しくなって、笑顔になります。



 10月の駅伝大会に、ユウ君は選手として参加することになりました。


 毎日一生懸命練習して、苦しいおもいをしてきましたが、これが最後の大会になります。


 去年のいじめは、いつの間にかなくなっていました。


 三年生になったとき、いじめていた子が別のクラスになったので、自然になくなっていたんです。


 だから、憂いはありません。


 駅伝、がんばろうね、ユウ君!




 そして、いざ大会当日。


 後輩からタスキを受け取って、ユウ君は走りました。


 歩道上で、たくさんの人が応援してくれます。


 みんな、知らない人です。


 知らないおじさん。

 知らないおばさん。

 知らない子供。


 でも、「がんばれ」って言われる度に、やる気が湧いてきます。


 息が苦しいけど、足が重いけど、それでも応援を受けることで、力がみなぎってきます。


 九区の先輩にタスキを渡して、ユウ君は倒れ込みました。


 胸の中に、達成感が満ちていきます。


 自分はやりきったと、がんばったんだと、とても嬉しくて、泣きそうです。


 後輩が、お疲れ様ですと、スポーツドリンクを渡してくれました。


 今までで一番おいしいドリンクでした。







 引退後、年が明けると、すぐに高校受験です。


 顧問の先生が言いました。

「これだけ苦しいことを乗り越えたんだ。受験勉強だってがんばれる」


 その言葉を胸に、ユウ君はがんばって勉強しました。


 確かに勉強は大変ですが、部活の練習に比べれば、全然です。


 ちょっと辛さの方向が違うけど、それでもあれだけ苦しいことを経験したのだからと、自分を奮い立たせました。



 その結果、ユウ君は見事に第一志望の高校に合格しました。


「お母さん、受かったよ、第一高校!」


「おめでとう!今夜ははお夕飯奮発しないとね!」


 ユウ君も、お母さんも、嬉しさ爆発です。


 


 あっという間に迎えた卒業式も、小学校以上に盛り上がりました。


 つらいこともあったけど、充実した中学校生活だと、ユウ君は思っています。


 さぁ、次は高校だね。


 がんばってね、ユウ君!

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