13年目

 中学校の至る所で響く、部活動の喧騒。


 そう、ここはユウ君の通う中学校、その放課後です。


 中学校に上がったユウ君は、陸上部に入部しました。


 種目は長距離走です。


 毎日走っています。


 三年生の先輩が4人、二年生が5人、一年生が6人の部活で、半分が長距離走です。


 実はユウ君、あんまり運動が得意ではありません。


 小学校の体育で、サッカーやバスケットボールをやると、みんなに「何やってんだよ」って怒られるくらい、ちょっと運動が苦手なんです。


 ユウ君の通う中学校では部活動入部は必須です。


 だから、何かできることはないかと探した結果が、陸上でした。


 高跳びとかハードルとかは苦手だったので、特に技術がいらなそうな長距離走にしたわけです。


 長い距離を走るのはすごく苦しいけど、我慢強く頑張れるユウ君にはぴったりです。



『ありがとうございましたっ!』


 一定の速さで走るペース走の後に筋トレをして、今日の部活は終了です。


 学校帰り、ユウ君は陸上部の友達と途中で別れて、独りで家路を歩きます。


「……今日はどうだろう」


 ユウ君、急に立ち止まると、大きな公園に入っていきました。


 ユウ君、寄り道かな?


 道草食ってないで、まっすぐ帰ろう?

 

 お母さんが晩ごはん作って待ってるよ?


 ユウ君はまわりをキョロキョロ確認してから、公園の奥、生け垣と用具倉庫の間に向かいます。


 しゃがみこんで、何かを手に取りました。


 マンガ雑誌です。


 結構汚れています。


 だめだよ?汚いよ?


 ユウ君、構わずページをめくり、読み始めました。


 あ、しかもちょっとエッチなやつです。


 何度もぺらぺらとページをめくっては、ちょっと手を止めて、またぺらぺらとめくってを繰り返して。


 何分か、その場でじっと雑誌を読んで、元の場所に戻しました。


 結構夢中になっていました。


 しょうがないよね?


 ユウ君だって中学生、女の子に興味津々なお年頃だもんね?


 ユウ君は更に数分、その場でしゃがんだまま、何度か立とうとしてはやっぱりやめて。


 それからやっと、家に向かいました。


「ただいま……」


「おかえりー」


 ソファでアニメを見ていたナオちゃんが、頬杖をつきながら、お兄ちゃんの帰宅にぼそっと適当に応じます。

 ユウ君の方は見ていません。


「ユウ、おかえりなさい」


 キッチンから、お母さんも出迎えます。


「遅かったじゃない」


 いつもより15分くらい帰るのが遅いことを、お母さんは気にしていました。


「……うん、部活が、ちょっと長引いたから……」


 ユウ君、嘘はいけないよ?


 ホントは公園でエッチな本を読んでたんでしょ?


 お母さんは、何か隠してるな?って気づいています。


 でも、深くは追及しません。


 お母さんは、ユウ君のことを信じています。


 悪いことをしているんじゃないって。


「お父さん遅くなるらしいから、ご飯にしましょ。ほら、ナオも」


「んー」


 ナオちゃんも、ちょうどアニメが終わったので立ち上がります。


 今日のご飯はからあげです。


 三人で、食卓を囲んで夕食です。


 今日も、神在月家は平和です。

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