12年目
気づくと、ユウ君はもう12歳、小学六年生です。
桜の花びらが舞う校庭で、最後の登校日を迎えました。
ユウ君、今日はスーツです。
ネクタイをお母さんに締めてもらって、ちょっと動きにくいな、なんて思いながら、革靴を履いての登校です。
「卒業かー」
「もう小学生じゃねーんだなー」
ずっと同じクラスだった仲良しのタイ君と、教室でおしゃべりをしますが、二人ともちょっと落ち着かない様子。
何週間も前から、卒業式の練習をしてきました。
去年も、在校生として、六年生を見送りました。
あの頃は、自分がその立場になるなんて、全然想像できていませんでした。
それが、もう目前です。
もう、卒業です。
体育館に移動し、緊張しながら入場します。
途中でお母さんの顔が見えて、ユウ君はちょっと安心します。
校歌斉唱。
そして、卒業証書授与。
緊張しながら、自分の名前が呼ばれるのを待ちます。
『神在月、優さん』
「は、はいっ!」
大きな声で返事をして、ユウ君は卒業証書を受け取りに、壇上に上がります。
緊張しながら、練習したとおりに、礼をして、右手、左手、と証書を受け取り、また礼をして、一歩下がって証書を脇に抱えます。
練習したとおりにできました。
保護者席で見ていたお母さんは、ちょっとうるッと来ています。
ハンカチで涙を拭いています。
『木村、太一さん』
「はいっ!」
続いて、タイ君が呼ばれました。
タイ君が壇上に上がる様子を、ユウ君はリラックスしながら見守ります。
あとは、卒業生で歌って、校長先生や来賓の人たちのお話を聞くだけなので、もうひと仕事終えた気分です。
混声合唱の後、退屈なお話を聞いて、卒業式は無事に終わりました。
教室に戻ると、泣いている女子がちらほらいます。
「ちえ~、ずっと友達だからね~」
「しおりちゃんも、元気でね」
こんな会話がいろんな場所から聞こえてきます。
男子はそんな女子を見てからかっていますが、ユウ君はというと、ちょっと女子に近い感覚です。
寂しいという思いと、これから中学生になるという期待に不安と、ちょっとナーバスな感じです。
この一年だけでも、日光への修学旅行、最後の運動会、タイムカプセルを埋めて、卒業アルバム制作と、楽しい思い出が蘇ります。
楽しかった分、まるで遊園地から帰るときのような名残惜しい気持ちを強く感じるんです。
校庭に出ると、みんな個々に写真撮影をしていました。
仲良しで写真の撮りあいっこをしています。
ユウ君も、タイ君一緒に写真を撮ってもらいました。
肩を組んでピースです。
「ねぇ、神在月君」
そんなとき、女子から声をかけられました。
同じクラスの
長いさらさらの髪をポニーテールにした、かわいらしい子です。
「一緒に、写真……、撮らない?」
遠慮がちに言われ、ユウ君は戸惑いました。
あんまり喋ったことのない女子です。
どうしていいか困っています。
だんだん顔が、赤くなっていきます。
「ほら、ユウ」
タイ君に促され、ユウ君は佳乃さんと写真を撮ることにしました。
ほら、ユウ君。もうちょっと佳乃さんに寄らないと。
恥ずかしがらずにガンバレ!
カシャッ、と撮ってもらい、佳乃さんはすぐにタイ君からカメラを受け取りました。
「あの、中井さん……」
「じゃ、じゃぁねっ」
ユウ君が呼び止めようとしても、佳乃さんは他の女子のところに駆けていってしまいました。
隣で、タイ君がニヤニヤしています。
「な、なんだよ」
「べっつにー」
ニヤニヤは止まりません。
少し離れたところで一部始終を見ていたお母さんも、同じくニヤニヤしていました。
小学校六年間、どうだったかな、ユウ君?
最後に嬉しいイベントがあったかもだけど、まだまだ人生これからだよ?
さぁ、次は中学校だ。
ガンバレ、ユウ君!
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