11年目

 お父さんは落ち込んでいました。

 まるで世界の終わりみたいな顔をしています。


 実はさっき、ナオちゃんがお父さんに言ったんです。

「もうお父さんとおフロ入るのやめるー」


 小学校三年生、そろそろお父さんと一緒にお風呂に入ることを気にしているみたい。

 お友達はみんなひとりで入っているって聞いて、なら自分も、って思ったみたい。

 お年頃ってやつかな?


 お父さんは仕事から帰ってきて、夕飯を食べている途中で、かわいいかわいまな娘のそんな言葉を聞いて慌てました。

 お箸を取り落とすくらい、衝撃を受けていました。

「……なんで、一緒に入らないの?」

「クラスのみんなはもう入ってないから」

「……みんなはそうだけど、奈緒はお父さんと、……一緒でいいんじゃないの?」

「いや。ひとりがいい」

「……どうしても?」

「うん」


 お父さん、必死です。

 子供とのお風呂が楽しみでしょうがないのに、それがなくなってしまうことがすごくさびしいみたい。


 そんな落ち込んだお父さんに、お母さんが声をかけました。


「お父さん、ユウと一緒にお風呂入ってくれば?」


 お父さんは、そっと顔を上げました。

 お母さんの提案に、ごはんを食べ終わった、テレビを見ている長男の方を、希望を見出すように見ます。


「……優、一緒に、入るか……?」

 恐る恐る尋ねました。


「うん、いいよ」


「そ、そうか、一緒に入るか。うん、入ろう!」


 お父さん、メッチャ嬉しそう。

 

 さっきとは打って変わって、ウキウキになるお父さん。

 ユウ君と一緒にお風呂に向かいます。


 お母さん、お父さんがさびしがってることに気づいて、声をかけたのかな?

 ナイスアシスト、お母さん!

 ユウ君も、優しいね!


 でもね、お父さん。

 ユウ君だって、いつまでも一緒にお風呂に入ってくれるわけじゃないんだよ?

 ちゃんとしようね?

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