9年目

 8月の半ば、お盆です。


 今日、ユウ君たちはお父さん、お母さん、ナオちゃんの4人でおばあちゃんの家に遊びに来ました。


 二泊三日の予定で、車に乗って、3時間。

 お家がたくさん並んでいるユウ君の住んでいる町と違って、おばあちゃんのお家は木がいっぱい生えていて、大きな山も見えます。

 お隣のお家は、ちょっと離れていて遠いです。


「あら、いらっしゃい」


 がらがらと戸が開いて、おばあちゃんがにこにこしながら出迎えてくれます。


「ユウ君、ナオちゃん、こんにちわ」

「こんにちわー!」

「こんにちわ~!」


 ユウ君もナオちゃんも、元気いっぱいに挨拶します。


「さ、入って。疲れたでしょ。クーラー冷えてるわよ」


 お父さんとお母さんは車から荷物を下ろして、おばあちゃんのお家に入ります。


「スイカ、冷やしてあるから」


 おばあちゃんが言うと、ユウ君とナオちゃんがぱぁっと笑顔になります。


「スイカッ!」

「すいかたべるー」

「はいはい、切ってくるから待っててねー」


 二人とも、テンション爆上がりです。


 冷え冷えのスイカを食べます。

 お皿の上のスイカをスプーンですくってますが、ユウ君は食べる前に種を掘り返してから食べて、ナオちゃんは構わずに口に入れてから、気になった種をぺって吐き出します。


「お義母さん、奈緒のランドセル、ありがとうございました」


 隣では、お父さんがおばあちゃんにお礼を言っています。

 今年小学校に入学したナオちゃん。

 去年の冬に、おばあちゃんからランドセルを買ってもらったんです。


「いいのよ。ユウ君のときはそちらのご実家からだったでしょう?順番よ」


「ほら、奈緒。おばあちゃんにランドセルありがとうは?」


 ナオちゃん、スイカから顔を上げて、ニカっと笑います。

「おばあちゃん、ありがとー」


「どういたしましてー」


 おばあちゃんもナオちゃんの笑顔が見られて嬉しそうです。


 暑い夏の日、エアコンの効いた室内で、談笑が続きました。




 夜になると、お庭で花火です。


 ユウ君は手持ちの花火を持って、お父さんに火を点けてもらって。

 ナオちゃんは初めての花火にちょっとビクビクしながら。


 お父さんが買ってきた、おっきな箱にたくさん詰まった花火を、順番に火を点けて楽しんでいます。

 家族みんなで、ニコニコです。


「おおきくなったわね~」


 縁側で、おばあちゃんがお母さんに声をかけました。

「ついこの間、生まれたばかりだと思ってたけど」


「ユウはちょこちょこイタズラするし、ナオはちょこちょこ熱を出すから、なかなか大変よ」


 お母さん、普段の兄妹の様子を思い出しながら、おばあちゃんとお話します。


「あら、あなただって、ちっちゃい頃はよく熱を出していたし、イタズラだってよくしてたじゃない。わたしの口紅でピエロみたいになったのは誰だったかしら?」

「もう、そんなこと、いつまでも……」


 知られざる、お母さんの子供の頃の様子を、おばあちゃんは懐かしそうに語りました。


「いいじゃない、何年経っても、自分の子供は子供なのよ」


 おばあちゃんは、どこか遠い目で、昔を懐かしみます。


「ユウも、うるせぇババア、なんて言ってくるのかなー」


 お母さん、ちょっと子供たちの思春期を想像し始めました。


「それも成長よ。わたしだって子育ては苦労したんだから、あんたもがんばって」


 おばあちゃんはお母さんの肩をぽんぽん叩きます。


「そしたら、ナオちゃんにもおんなじこと言ってあげなさいな」


「ナオが母親になる姿とか、想像できないなー」


「わたしだって、あなたが小学校通ってる頃に母親になる姿なんか想像できなかったわよ」


 花火にはしゃぐ子供たちの声をBGMに、何気ない会話が続きます。


 ちょっと、お母さんも甘えんぼモードみたいだね。

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