8年目
「ただいまー」
学校が終わり、家に帰ってきたユウ君はランドセルを部屋に置きに行きます。
「いってきまーす」
そして、お友達と遊びに行くために、急いで靴を履き直します。
「おにいちゃん、どこいくの?」
その様子を、リビングからひょっこり顔を出した妹のナオちゃんが見つけて駆け寄ってきます。
ナオちゃんは保育園から帰ってきて、テレビを見ていましたが、アニメが終わってしまったので退屈していました。
そんな時、お兄ちゃんのユウ君が帰ってきました。
お兄ちゃんと一緒に遊べると思ってウキウキしています。
「公園だよ。みんなでサッカーするんだ」
「あたしもいくー」
ナオちゃん、目をキラキラさせています。
お兄ちゃんと一緒にボール遊びができると喜んでいます。
「え~……」
でも、ユウ君はちょっと不満みたいです。
お友達と一緒に遊びたいのに、ナオちゃんが一緒だと思いっきり遊べません。
前にもナオちゃんを連れてお友達と遊びましたが、ちょっとお友達もつまらなそうにしていたんです。
もう妹連れてくるなよ、なんて言われちゃいました。
それでもはっきり断れないのは、お母さんから「ナオのこと面倒見てあげて」ってお願いされているからです。
ユウ君、すっごく悩んでいます。
お友達とも遊びたいし、妹の遊び相手にもなってあげないといけない。
そこで、思いつきました。
「じゃあさ、かくれんぼしよう」
ナオちゃんの顔に、ぱぁっと笑顔が咲きました。
「かくれんぼするー」
お兄ちゃんと遊べるのがとっても楽しいみたいです。
「じゃあ、ナオがオニね」
「うんっ」
「目をつぶって、10を3回数えるんだぞ。できるか?」
「できるもんっ」
バカにしないでよお兄ちゃん、と言いたげに、ナオちゃんは胸を張ります。
「いーち、にーい、さーん――」
玄関の傍で、ナオちゃんは柱におでこをくっつけて数を数え始めます。
ユウ君は、その隙に玄関から外に出ます。
「なーな、きゅーう、じゅっ」
おやおや、ナオちゃん、七の次は九じゃなくて八だよ?
ナオちゃんが数えている間に、ユウ君は全速力で、道路に出て走っていきました。
あれ?ユウ君どこまで行くの?
あんまりお家から離れると、ナオちゃんが探しに行けないよ?
「タイくーん」
「おそいぞー、ユウ」
ユウ君、仲良しのタイ君たちが待っている公園に着きました。
どうやら、ナオちゃんとかくれんぼするのはウソで、ナオちゃんがお兄ちゃんを探し回っている間に公園でサッカーをするみたいです。
ダメだよ、ユウ君。そんなことしちゃ。
一方、ナオちゃんはお庭でお兄ちゃんを探しています。
数字を数えている間に玄関が空いたのに気づいていたので、お外に出たのを知っていたからです。
ぜったいにお兄ちゃんを見つけるんだ、って探しますが、当然のようにお兄ちゃんは見つかりません。
どこに行ったんだろう?
ナオちゃん、玄関を出て、まわりをきょろきょろ見回しながら、お兄ちゃん探しにひとりで歩いていきました。
5時になって、ユウ君はお家に帰りました。
「ねぇ、ユウ。ナオは?」
キッチンから出てきたお母さんに聞かれます。
「しらなーい」
ユウ君、しらない、じゃないでしょ?
ナオちゃん、ユウ君のこと探してるんだよ?
時計を見ると、もう5時30分になりました。
さすがに心配になって、お母さんはそわそわし始めました。
こんなこと、これまでありませんでした。
探しに行こう。
そう思ったとき、ピンポーン、と玄関のインターホンが鳴りました。
近所に住むおばさんでした。
そして、おばさんと手をつないでいるナオちゃん。
「ナオッ」
お母さん、ナオちゃんに駆け寄りました。
「どうしたの?どこ行ってたの?」
ずっと鼻をすすっている、涙を流して目が真っ赤になったナオちゃんが、お母さんを見て駆け寄りました。
「おがぁざぁ~ん」
ぼろぼろと涙を流して、ナオちゃんはお母さんに抱きつきました。
「道路の真ん中で泣いてたのを見てね」
おばさんは、買い物の帰りに、わんわん泣いていたナオちゃんを見つけたそう。
お母さんは何度もお礼を言って、頭を下げました。
この後、ナオちゃんから話を聞いたお母さんは、ユウ君のことをたくさん𠮟りました。
「お兄ちゃんが、そんなことしちゃダメでしょ!」
「ユウだって、一緒にお出かけしてるときにお母さんいなくなったらイヤでしょ?」
こんな風に、いっぱい叱られました。
ユウ君、泣きながらお母さんにごめんなさいってしました。
ナオちゃんにも、ごめんねってしました。
こうして、神在月家に起こった大事件は幕を下ろしました。
ユウ君、もうそんなイジワルしちゃだめだからね?
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