招かれざる客

 山間から太陽の光が広がる。辺りはぼんやりと照らされていた。

 朝が来たのだ。

 ダリアはあくびをした。

「ここがフロンティア家ですわ」

 ダリアたちの前には、広大な庭が広がっている。

 石畳の通路を挟むように水路が敷かれ、中央には大きな噴水がある。三柱の女神の彫刻が掲げる杯から、澄んだ水が吹き上がるものだ。

 眠そうなダリアとは打って変わって、ジャンの両目は輝いた。

「すごいよ! 広くて綺麗だなぁ。通路の外の芝生だって手入れが行き届いているし」

「ギュスターブ公爵の怒りを買わないためですわ。ギュスターブ公爵の心は決して広くありませんの」

「勿体ないね。お屋敷だって素敵だから、人が良ければ人気者になれるのに」

「人の良いギュスターブ公爵なんて、逆に怖いですわ」

 ダリアが苦笑すると、ジャンは両目をパチクリさせた。

「そんなに怖い人なの?」

「恐ろしい人です。禁忌の使い手だって思うままに利用しているでしょう」

「そういえばそうだったね。でも、ギュスターブ公爵が禁忌を使わせていたと王国に知らせればいいんだよね? ギュスターブ公爵だって王国には逆らえないはずだから」

 ジャンの質問に、ダリアは頷いた。

「禁忌の魔術を扱う人間は、エクストリーム王国で処刑対象です。きっと動いてくれますわ」

「俺はそんなにうまく行かないと思うぜ」

 カルマが口を挟んだ。


「王国の人間がギュスターブ公爵を取り調べようとしても、グレイとのつながりを確信させるものがなければ、証拠不十分で王国は動けないだろ。グレイの単独行動として片付けられたら目も当てられないぜ」


「それもそうですわね……処刑対象になる大罪に関してギュスターブ公爵が正直に話すはずがありませんわ」


 ダリアは冷や汗を垂らした。

 ジャンはヒィッと小さな悲鳴をあげた。

「そんなにズルい人なんだ」

「あいつとグランだけは同じ人間だと考えない方がいいぜ」

 カルマは庭の奥にある屋敷を睨んだ。

「あの中にギュスターブ公爵とグランがいる。俺たちのような招かれざる客は力づくで会いに行くしかねぇ」

 カルマの言葉に、アムールは頷いた。

「まずは僕が行ってみる。しかし、グラン様とお話できればかなりの幸運に恵まれていると考えて欲しい」

 そう言って、アムールは歩き出した。緊張した雰囲気をまとっている。辺りを警戒しているようだ。

 アムールは安堵の溜め息を吐いた。


「罠はなさそうだ」


「しんがりなら俺がやるぜ。二人で行けよ」


 カルマに促されるままに、ダリアとジャンは歩き始めた。

 そんな四人を遠くから見つめる影がある。

 神龍に乗るセラと、黒い大鷲に乗るグレイだ。

 セラは笑顔を輝かせた。


「ビンゴ! やっぱりダリアたちはフロンティア家にいたよ」


「そうだね。本当に作戦通りでいいんだね?」


 グレイが訝しげに尋ねると、セラは親指を立てた。

「もちろん! お兄さんと一緒に栄光を掴もう!」

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