フロンティア家
強力な才能の持ち主
トッカータ村の近くに山がある。標高は高く、トッカータ村の住民も近づかない未開の地だ。日頃は誰も踏み込まないため、自然豊かな土地となっている。
そんな高山の中腹に大木がある。大木の傍に黒い大鷲が座っている。
大木には、よく見ると隙間がある。その隙間を入ると空洞になっていて、フードを目深にかぶった人間が寝ていた。禁忌の使い手グレイである。
グレイは大木を住処にしていた。住処と言ってもほとんど寝るために使っている。グレイにとって快適な睡眠は必須事項だ。
特に今日は疲れていた。時の魔術の使い手を倒すための知恵を得るためとはいえ、ギュスターブの家に行ったのが運の尽きであった。
監禁された挙句に散々プライドを傷つけられた。寝ている間も苛立ちを感じていた。
「あんな奴らには二度と関わらない」
そう呟いて、グレイは寝返りをうった。
そんな時に、黒い大鷲がけたたましく鳴く声が聞こえた。
「うるさいな……なんだよ」
グレイはめんどくさいと思いつつ、大木の隙間から外に出た。
急に強風に見舞われた。
グレイはフードを押さえながら空を見上げる。既に夕暮れ時は過ぎ、星空が広がっていた。
星空には全身が真っ白の龍が翼を広げていた。白い龍には茶髪を三つ編みにまとめた人間が乗っている。
グレイは口元を引くつかせた。
「神龍にセラか」
「ピンポーン、大正解!」
神龍が徐々に地上に近づく。地面に充分に近づいた所で、セラがグレイの前に降り立った。
「物覚えのいい子は好きだよ」
「どうでもいいから帰って。僕は昼寝に忙しいんだから」
「もう夜なんだから、悪い子は起きなくちゃ!」
セラが笑顔を輝かせる。
グレイは舌打ちをした。
「昼間に眠れなかった分寝ておきたいし、君とは関わりたくないんだ」
「いいんだよ、君にその気が無くてもお兄さんが連れて行ってあげるから」
セラは一人で頷いてグレイに詰め寄る。
「君には野望があったはずだ。時の魔術の使い手を倒すというものだよね」
「優先順位があるよ。とにかく僕は寝たい」
「善は急げというよね!」
セラが強引にグレイの両手を掴む。
「君が決断しないと、神龍が大鷲を食べちゃうし、急がないとね!」
「え、いや、何をしているんだ!?」
グレイの声は裏返る。
神龍が黒い大鷲をくわえていた。黒い大鷲は一生懸命に翼をばたつかせるが、逃げられないでいた。
セラが大笑いをする。
「遊んであげているんだよ。君が私と組まないのなら、間違って食べるかもしれないけどね!」
「悪意しか感じないよ!」
グレイはワナワナと全身を震わせた。
「仮に僕が従うとしても、やる気のない人間に何ができるのかな!?」
皮肉を込めた問いかけに、セラは急に雰囲気を変えた。
先ほどまでの大笑いは鳴りを潜め、怖いほど優しい笑みを浮かべる。
「いいんだよ、やる気なんて無くたって。それでも私は君の能力を使いたい。君はそれほどの才能の持ち主なんだ」
グレイは唖然とした。思わぬ高評価を耳にして、戸惑っていた。
セラは続ける。
「知っての通り、時の魔術の使い手は恐ろしく強い。たぶん一対一じゃ誰も勝てない。でも、私たちが組めば作戦の幅が広がる。とりあえず一緒に頑張ってみない? 永遠に組もうなんて言わないから」
セラの純粋な気持ちだろう。
グレイはギュスターブたちのせいで傷ついたプライドが、治っていくのを感じた。
グレイは心ならずも笑いがこみ上げた。
「そんなに僕が必要なの?」
「そうだよ。君は強力な才能の持ち主だ」
セラは力強く頷いた。
グレイは声を出して笑った。
「いいよ、しばらく組んであげる。ただ、僕の好きなようにやらせてもらうよ」
「許容範囲の行動ならなんでもいいよ。時の魔術の使い手はフロンティア家に向かっているはず。まずは行ってみようか」
「フロンティア家か……ギュスターブ公爵の家だよね」
グレイの表情が曇る。
ギュスターブには散々プライドを傷つけられた。記憶から消せるものではない。
セラは微笑んだ。
「ギュスターブ公爵と会わないようにしよう。それなら大丈夫かな?」
「……そうだね」
グレイはためらいがちに頷いた。
「ギュスターブ公爵の屋敷に入る前に、時の魔術の使い手を仕留めればいいね」
「話は決まったね。フロンティア家に向かいながら作戦を練ろう。じゃあ行こうか!」
セラの誘いに、グレイは笑った。
「もう二度と、あの女には負けないつもりだよ」
神龍は黒い大鷲を吐き出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます