神龍の力
ダリアたちは互いの結束を確かめ合った。
そんな様子を空から眺めるセラは感嘆の溜め息を吐いた。
「いい関係だね。ちょっと羨ましいよ」
セラにとって心から信頼できる存在はごく一握りだ。自らに忠実な神龍もそうだ。
その神龍がダリアの呪縛に掛かって身動きが取れない。空中で一生懸命に翼を上下させるが、全く進めない。
「
セラは聖騎士団飛行部隊の隊長だ。
王都を守る義務があるし、王国に忠誠を誓うべき立場でもある。
「フランソワ王太子の婚約者をいきなり仕留めるのはためらいがあるけど、他の人たちは大罪人として扱うしかないんだよ」
セラは酷薄な笑みを浮かべる。
「
セラが聖術を唱えた。
セラの頭上に眩く輝く白い球が浮かぶ。白い球は弾けて、周囲を一瞬だけ輝かせて消えた。
地上で槍を構えるアムールがひっきりなしに周囲を窺う。
「いったい何が起こった!?」
「セラが聖術を唱えたな。俺たちとやりあう気だぜ」
カルマが額に汗をにじませる。
「きっととんでもない効果があるはずだぜ」
「大したものじゃないよ。そんなに期待しないで」
セラが、神龍の背中から身を乗り出して片手を振る。
「これ以上攻撃されないようにしただけだから」
「何をしたのか分からねぇが、気を付けた方がいいな」
カルマが背負っていた大剣を抜き放ち、空に向けて円を描く。
「あんまり戦いたい相手じゃねぇがやるしかない。暗き祈りよ我に力を、ファイアーボール」
いきなり最高の炎の魔術を繰り出す。
燃え盛る球が召喚され、勢いよく空飛ぶ神龍に向かっていく。
カルマは咆哮をあげた。
「いっけー!」
盛大に吹き上がる火炎球の威力は計り知れない。まともに食らえば神龍でも無傷ではすまないだろう。
神龍に多少のダメージを与えれば、セラの戦意をそぐ事につながるだろう。
ダリアの呪縛を掛けられた神龍は避けようがない。
「もらったぜ!」
カルマは勝利を確信して、片手で握りこぶしを作った。
抱き合ったままのジャンとダリアが歓声をあげる。アムールも感心していた。
しかし、セラの笑みは崩れない。
「うんうん、よくやったよ」
深々と頷いて、向かい来る火炎球を見つめている。
カルマが豪快に笑った。
「おいおい、何も対策をしなくていいのかよ!」
「大丈夫、私はこんなものに負けないから」
「強がってもどうにもならないぜ……!?」
豪快に笑っていたカルマの表情が凍り付く。
神龍に火炎球が届く寸前の事だった。
火炎球が急に霧散して、光の残滓となったのだ。光の残滓はゆっくりと地面に降りて、儚く消えていった。
セラが微笑む。
「私に強がりなんて必要あるのかな?」
カルマは呆然とした。自分が扱う最強の魔術を、あまりにも簡単に消されたのだ。
打つ手がないと判断するより先に、畏怖すら覚えた。
「強い……こんなに力の差があるものなのか?」
カルマは聖術の恐ろしさに震えた。
かつてカルマに聖術を見せたのは、血のつながった兄であるグランだ。どうあがいても勝てないと思ったものだ。カルマにはプライドがあるが、グランの実力が圧倒的であると認めるしかなかった。
しばらくは呆けたものだ。
やがて悔しさを感じて魔術と剣術を鍛えた。死に物狂いで奮闘したつもりだ。炎の魔剣士と呼ばれるまでになった。
しかし、実際はグランどころかその部下に後れを取っている。
「……ちくしょう」
カルマは絞り出すように呟いた。大剣を構えるのはただの意地だ。新たな作戦なんてない。諦めたくない。グランには、まだ負けたとは認めたくない。
そんなカルマの意地を打ち砕くように、セラがゆっくりと告げる。
「頑張ったご褒美に神龍の力を見せてあげる。死後の世界へ手土産にするといいよ」
事実上の死刑宣告であった。
神龍がゆっくりと口を開ける。
次の瞬間に、白銀に輝く大量の息がカルマに迫る。神龍の吐き出す息に触れたものは、どんなものも神に召される。
カルマの表情に絶望が浮かぶ。避けられないし、炎の魔術で迎撃する事もできない。
逃げる事も防ぐ事もできない。
待ち受けるのは死のみだろう。
そんな時に、優雅に笑う声が響いた。
何がおかしいのかダリアが笑っていたのだ。
「諦める必要なんてありますの? 暗き祈りよ我に力を、タイムストップ」
ダリアが魔術を放った。
神龍の息が、不自然に動きを止める。
ダリアは不敵に笑ったまま、ジャンからそっと離れた。
「セラ、あなたはとんでもない過ちを犯しましたわ」
「何かな? 至高の令嬢にタメ口をきいている事かな?」
セラが興味深そうにダリアを見つめる。
ダリアは鼻で笑う。
「そんな事ではありませんわ。あなたの過ちは、この私を本気にさせた事です。あなたが無様に逃げ帰る未来が見えますわ」
「わかりやすい挑発だね。いいよ、私も全力を出すつもりだから。後悔しないでね」
セラの雰囲気が変わっていた。口元は微笑んでいるが、凍てつく視線を浮かべていた。
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