ダリア VS セラ
セラが凍てつく視線をダリアに向ける。
「念のために確認するけど、本気で命のやり取りをするつもりなんだよね? ここで命を落としても文句を言わないよね?」
ダリアは優雅な微笑みを返した。
「命を落とした後で文句なんて言えませんわ。私は死なないのでご心配なく」
「時を操る
セラは凍てつく視線のまま、おどけた口調になる。
「負けそうになったら自分から死に戻るなんて、やらないよね?」
「あら、私が負ける前提で話を進めないでくださる? 私はスローライフを満喫するために戦うだけですの。あなたに理解できるかしら?」
ダリアはクスクス笑う。
今のダリアにはかけがえのない仲間がいる。スローライフを満喫するためには、彼らにも幸せになってもらう必要がある。犠牲にしたり見捨てたりするなどもっての外だ。
セラは悩まし気に小首を傾げた。
「ううん、私にはちょっと難しいかな。スローライフと戦う事は相反すると思っちゃう」
「正直ですわね」
ダリアは頷いた。
セラの言葉は理解できる。
死に戻る前のダリアなら、他人をどれほど犠牲にしても心を痛める事は無かった。そのため、自分が悠々自適に暮らすためならどんな犠牲が払われても良かった。
しかし、今は大切な仲間がいるありがたみを知ってしまった。
大切な仲間だからダリアを見捨てないし、命をかけて守ろうとする。そんな仲間がいなくなるなんて、想像もしたくないほどに恐ろしい。
仲間が目の前で苦しんでいたり殺されそうになったりした時に、やれる事があるのに見捨てるのは考えられない。
「スローライフは私一人では成り立たないのですわ」
「君の言いたい事はぼんやりと理解したけど……私にも仕事があるんだ。王国の方針で禁忌を止めないといけないんだ。禁忌を扱った人間はもちろん、その関係者も処分の対象なんだよね」
「その割に、ギュスターブ公爵の事を見逃しますの? おかしな話ですわね」
ダリアが純粋に疑問を呈する。
ギュスターブはグレイに、人や動物の心を操る魔術を使わせている。禁忌に該当する。
セラは複雑な笑みを浮かべた。
「ギュスターブ公爵は私の管轄じゃないんだ。これ以上聞きたいのなら、死んでもらうしかないよ」
「口止めされているようですわね。分かりました。長話はこのへんにしましょう」
ダリアは優雅に両手を広げた。
「勝負は一瞬でつきそうですわ。暗き祈りよ我に力を、タイムリバース」
「
セラの周囲が神々しく輝く。周囲の温度が急激に上昇し、辺りが真っ白に包まれる。大地が轟音を立ててひび割れる。熱気に満ちた白い気体と土煙が上がる。
ダリアたちは、燃えるような熱さに見舞われていた。肌がジリジリと焼ける感覚がある。
セラは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「もう間もなく太陽の光が召喚されるよ。地上にはクレーターしか残らないと思う。私はバリアを張っているから平気だけどね。これを防げた人はいないんだ」
「確かに眩しいですわ。暗き祈りよ我に力を、タイムストップ」
ダリアは両目を閉じて魔術を放った。
白い気体も土煙もその場で止まった。
セラは口の端を上げる。
「時を止めるのは、時間稼ぎにすぎないよ。もう既に人間の身体が長く持つ環境じゃないから」
「カルマ、神龍に炎の魔術を放ってみなさい」
唐突に名前を呼ばれたカルマは戸惑った。
「防がれたばかりだぜ?」
「いいからやってみなさい。全力でやれば当たるはずですわ」
ダリアの両目は真剣だった。
カルマは豪快に笑って、空に向けて大剣で円を描く。
「仲間を信じて敵を倒せたら気持ちいいな! 暗き祈りよ我に力を、ファイアーボール」
カルマは自分が繰り出せる最大の攻撃を行った。
セラは声を出して笑った。
「さっき防いだよ! 私のバリアはあらゆる魔術を弱めるんだから。神龍に届くなんて……」
ありえない。
そう口にしようとして、セラの背筋に悪寒が走った。
炎の勢いがまったくそがれないのだ。妙に熱さを感じる。
火炎球は、このままでは神龍に当たる。
「聖なる祈りよ我に力を、ディスコネクト」
セラは急いで聖術を放った。
神龍の手前で透明な壁が張られる。
火炎球が音を立てて弾けた。火の粉を残して消えていた。
セラが冷や汗を垂らす。
「バリアが無効化されている……? まさか、
セラが両目を見開いた。
ダリアはゆったりとしたテンポで拍手をしていた。
「そのまさかですわ。バリアだけ発動前の時間に戻しましたの。こんな状態で、あなたの他の聖術を反射させたらどうなるか、お分かりいただけるかしら?」
セラは愕然とした。
神龍はダリアの魔術のせいで動けない。自分たちの安全を確保するためのバリアは無効化されている。
ダリアは神龍の息と太陽の光を、そっくりそのままセラに返す事ができる。返された術を新たな聖術で防ぐ事ができても、攻撃の手段はない。
ダリアはとどめの一言を掛ける。
「私のスローライフを邪魔するのならお覚悟を」
セラは乾いた笑いを浮かべた。笑うしかなかった。
「反則とかそんなレベルじゃないよ、ズルいよ」
「私が負ける前提で話を進めようとした報いですわ」
ダリアは片手を上品に口元に当てて笑った。
「このまま帰るのなら、神龍に掛けた魔術を解いてもよろしくてよ」
「うん、分かった。今回はもう帰るよ。グラン様にしっかりと報告しないと」
セラは頷いた。
「グレイも追いかけたいし」
「そちらはお好きにどうぞ。それではさようなら」
ダリアが魔術を解くと、神龍は雄大な空を飛んで行った。
白く包まれていた景色は元に戻った。草花が穏やかな風に揺れる。
辺りは宵闇が迫っていた。
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