次の目的地は
村長の家では、ガイとカルマが向かい合って食事をしていた。二人とも今日は野菜や卵をガツガツと食べている。
ひとしきり食べ終わった後で、カルマがプハーッと息を吐く。
「労働の後の飯はうまいぜ!」
「たった一日で随分と畑仕事ができるようになったな。大したものだ」
ガイもひとしきり食べ終わり、一息ついた。
「おまえと張り合うつもりで頑張っただけで腹が減ってしまったものだ」
「腹が減りゃ食べればいいだろ。食べ物はその為にあるんだしな!」
カルマは豪快に笑うが、ガイは首を横に振った。
「いつも食べ物があると考えない方がいい。野菜や果物が実らなかったり、鶏が卵を産めなかったりもする。役人たちに不当に搾取される時もある」
「ああ、そんな時もあるのか。あいつらならやりそうだな」
カルマは溜め息を吐いた。
「あんたらも大変だな」
「役人たちを止めてくれないのか?」
「俺にそんな権限はねぇよ。家でいろいろあってな」
カルマは天井を見て、遠い目をした。
「生きているのが不思議なくらいだぜ」
「ただいまー、父さんちょっといい!?」
ジャンが勢いよくドアを開けて帰ってきた。
ガイは苦笑する。
「いつも思うが、落ち着け」
「ああ、ごめん。ビックリしちゃったのかな。そんな事より大変な事が分かったよ!」
ジャンは軽く謝って、ずんずんとガイに近づく。
「禁忌の使い手が分かったんだ。グレイだったよ」
ガイが眉をひそめる。
「グレイとは誰だ?」
「そうか、父さんは見ていないのか。フードを目深にかぶった怪しい人だよ」
ジャンの言葉を聞いて、カルマが片手を顔に当てて首を振る。
「あの野郎……バレちまったのか」
「禁忌の使い手といえば、王国が重罪人に指定しているはずだ。すぐに突き出すべきだが、知り合いなのか?」
ガイの質問に、カルマは乾いた笑いを浮かべた。
「腐れ縁というヤツだ。家でいろいろあった時に世話になったからな。俺にとって命の恩人なんだ」
「カルマを助けたんだ。意外といい人なんだね」
ジャンが瞳を輝かせると、カルマは頷いた。
「変わり者だが悪い奴じゃなかったぜ。自己中で嫉妬深いけどよ」
「そ、そうなんだ」
ジャンが曖昧に返事をすると、カルマは笑った。
「あいつの話は面白いぜ。恨みつらみに満ちているし、ひねくれている」
「……友達は選んだ方がいいと思うよぉ」
ジャンが小声になると、カルマは爽やかに微笑んだ。
「安心しろ、類は友を呼ぶってヤツだ。あんたも友達だと思っているぜ」
「あ、ありがとう」
ジャンが気まずそうに目をそらす。
ガイが溜め息を吐いた。
「根が悪い人間でなくても、禁忌の使い手は捕まえなければならない。カルマも協力してくれるか?」
「いいぜ。乗りかかった船だ。放っておけば、グレイはいつか誰かに刺されるだろうからな。次にグレイに会ったら大人しくするように言うぜ。俺が知っている事はあんたらに何でも教える」
カルマは口の端を上げた。
そんな時に、ダリアが帰ってきた。
「相変わらずジャンは足が速いのですわ。追いつけません」
「ああ、ごめん。またダリアを置いてっちゃった!」
ジャンは自分の頭をコツンと叩いた。
ダリアはクスクス笑う。
「のんびり歩ていた私も私ですけどね。そうそう、禁忌の使い手をどうするかお話は進みましたの?」
「捕まえないとダメだよね、という話になったよ」
ジャンが言うと、ガイは頷いた。
「俺たちだけでどうにかなる相手じゃないだろう。できれば王国の部隊を要請したいが……俺にそんな権限はない」
ジャンとガイが悩んでいると、カルマが露骨に溜め息を吐いた。
「結局は権力頼みかよ。ダリアは何かできないのか? 王太子の婚約者だろ?」
カルマの問いかけに、ダリアは首を横に振った。
「フランソワ王太子だけでは、ほとんどの人を動かせませんわ。才能はあるのですが若すぎるのです」
「王家の人間でも無理な事があるのか。複雑すぎるぜ」
「王国の権力争いは複雑なのです。人を動かす力なら、フランソワ王太子よりもギュスターブ公爵の方が上ですわ」
ギュスターブ公爵。
この名前を出した時に、カルマはぶんぶんと首を横に振った。
「そいつに頼るのだけはやめておけ。グレイから聞いたが、禁忌を積極的に使わせているらしいぜ」
「本当ですの?」
ダリアが両目を見開くと、カルマは両腕を組んだ。
「本当は内緒にするつもりだったが、あんたらを無駄に危険に晒したくないからな。ギュスターブ公爵が何を考えているのか聞いていないが、反乱するつもりかもな」
「禁忌を扱うのなら、充分に考えられますわね。エクストリーム王国の規律では、禁忌を扱うのはそれだけで反逆罪となり、処刑対象です。ギュスターブ公爵が大人しく処刑されるつもりとは考えられません。王国の転覆を狙っているはずですわ」
ダリアが言葉をつなぐと、ジャンとガイは両目を丸くしていた。
その場にいる全員に冷や汗が流れる。
沈黙が流れる。
その沈黙を破るように、ジャンが笑った。
「みんなが黙るとなんだかおかしいね!」
ジャンが笑うと、つられてダリアも笑った。
「あなたの笑顔に癒されますわ」
「カルマ、大事な事を教えてくれてありがとう。何があってもギュスターブ公爵に相談するのはナシだね」
ジャンがお礼を言うと、カルマは苦笑した。
「俺自身は仲間の情報を売った大馬鹿野郎だけどな」
「仲間が悪い事をしているのを止めるのは、立派な事だと思うよ。頑張ろう!」
「ダリアも言っていたが、あんたの笑顔はパワーがあるな」
カルマは豪快に笑って、右の拳を天井に向けて突き出した。
「辛気臭い事は言わねぇ。グレイを止めるぜ!」
「……ギュスターブ公爵以外の貴族に頼る事になるな。まずは頼りになりそうな人物を見つける事から始まるか」
ガイが口を開く。
「フォルテ街に行けば、少しはマシな人物が見つかるかもしれないな。情報も集まるだろう」
「ああ、野菜や果物を献上する場所かぁ。遠いね」
ジャンが溜め息を吐くと、カルマが立ち上がり、ジャンの肩をポンと軽く叩く。
「頼りにしているぜ。俺は絶対に迷子になる!」
「自慢げに言う事かしら」
ダリアが呆れ顔になった。
カルマは胸を張っていた。
「自信だけなら負けないぜ!」
「唐突で悪いが……少しだけジャンと二人きりにしてほしい」
ガイの口調は暗く、重かった。
「ダリアとカルマには悪いが、外に出ていてほしい」
「水臭いぜ、俺にも教えてくれよ!」
カルマは不満をあらわにしたが、ガイが首を横に振る。
「どうしても二人で話したい」
「分かりましたわ、親子ですものね。二人で語り合いたい事もあるでしょう。カルマ、外に出ましょう」
ダリアがカルマの背中を押すと、カルマは文句を言いたげであったが外に出た。
ジャンは首を傾げた。
「急にどうしたの? フォルテ街までの道のりなら大丈夫だよ」
「おまえには長年秘密にしていた事がある。座りなさい」
ジャンは促されるままに、ガイの前に座る。
ガイの雰囲気は張り詰めていた。
「心して聞いてほしい。おまえと俺は血のつながりがない」
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