震える役人たち

 役人たちはテーブルを囲んで震えていた。深紫色の美少女の魔術にコテンパンにやられてから、その少女を見るたびに恐怖で震えあがってしまうのだ。今日はチート級の男を連れて行ったが、役人自身は威勢よく吠えるのがやっとで、手出しなど全くできずに逃げ帰った。


「あいつは勝てたかな」


 大柄なリーダー格が口を開く。あいつとは、深紫色の美少女と戦ったはずの男である。名前をカルマという。

 他の役人たちは震えながら頷く。

「き、きっと勝ったぞ」

「カルマなら、あんな女ひとひねりだ」

 カラ元気を出して、乾いた笑いを浮かべる。

 リーダー格は自らを鼓舞するように無理やり笑った。

「そうだな! 当り前だよな!?」

 ぎこちない笑いが響き渡る。

 そんな笑い声を聞きながら、足音が聞こえていた。

 役人たちは小さな悲鳴をあげた。もしも深紫色の美少女が来ていたら笑いごとではない。

 おそるおそる足音のする方を向くと、黒いフードを目深にかぶった人間が部屋に入っていた。


「おや? カルマはいないのか?」


 声が低く、男であると推察できるが、体格が分からない。

 黒いフードの男は部屋中をキョロキョロと見渡して、溜め息を吐いた。


「いったいどこへ行ったのか」


「グレイか。カルマならトッカータ村にいる。ヤバい女と戦っているはずだ」


「ヤバい女? どんな女だ?」


 グレイと呼ばれた男は疑問を呈した。

 役人たちはここぞとばかりにまくしたてる。

「税の取り立てに行ったら、俺たちに変な技を仕掛けたんだ!」

「みんな動けなくなった!」

「カルマは魔術だと思うと言っていたが、ヤバかったよな」

 役人たちの話を聞きながら、グレイはへぇ~と興味深そうに頷いた。

「面白そうな女だね。会ってみたいな」

「そうだな、おまえならヤれるだろ! トッカータ村にいる深紫色の女だ。顔がいいからって油断するなよ」

 役人たちは下卑た笑いを浮かべた。

 グレイは両手を上に向けて首を横に振った。


「顔なんて興味が無いよ。僕の魔術と力比べができると嬉しいな」


「相手が嫌がっても魔術を仕掛けて来い! 俺たちに逆らった事を後悔させろ!」


 役人のリーダー格が下品に高笑いをあげると、グレイは露骨に舌打ちをした。

「僕は命令されるのが嫌いなのは知っているだろう?」

 グレイの雰囲気が変わっていた。禍々しい空気をまとっている。近づけばプレッシャーに潰されるだろう。

 役人たちは鼻水を垂らしながらコクコクと頷いた。

 グレイは溜め息を吐いた。禍々しい空気は消えていたが、呆れているのが窺える。


「カルマと話をするついでに、深紫色の女と会ってみるけど、期待しないでね」


 そう言って踵を返した。

 役人たちは再び震え出した。

「あいつ、やっぱりカルマと似ているよな」

「グレイを怒らせたら命はないぞ」

「死にたくない死にたくない」

 そんな会話を耳にしながら、グレイはニヤついていた。

 外には一匹の黒い大鷲が待っている。グレイの使い魔というべき存在だ。グレイが近づくと、背中を向ける。

 グレイは微笑んで大鷲の背中にまたがる。

「今度はトッカータ村に行きたいんだ。連れて行ってくれるかな?」

 大鷲は翼を広げた。主の問いかけを肯定しているのだ。

 ゆったりと地面を離れて大空を舞う。

 グレイは笑いが止まらなかった。

「今日はいい日だ。カルマに面白い話を聞かせられるし、面白い女と会えそうだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る