新たな住民?

 カルマは大剣を背中の鞘に納めて立ち上がり、両手を広げた。

「降参だ。思った以上に強かったぜ」

「お褒めに預かり光栄です、と申し上げたいところですが、あえて言わせてもらいますわ。この村で戦いを仕掛けた事は万死に値しますわ」

 ダリアは呆れ顔になっていた。

「大儀だってなさそうですし」

「悪かったな。美人で強い女がいると聞いて興奮しちまったんだ」

「役人の差し金ですの?」

「そこはノーコメントだ」

 カルマは苦笑した。

「あいつらの差し金なんて屈辱すぎて耐えられないぜ」

「正直ですわね。度が過ぎると寿命を縮めますわ」

「よく言われるぜ」

 ダリアの苦言に、カルマは大笑いを浮かべた。

「現に死に掛けたしな」

「ジャンに感謝なさい。彼がいなかったら、あなたを助けるなんて考えもしませんでしたわ」

 ダリアがジャンに視線を向けると、ジャンは赤面して両手をパタパタと振った。

「ぼ、僕は大した事はしていないよ。必死だっただけだよ」

「いや、大したもんだったぜ。聖術なんてそんなに見ないぜ。助かった!」

 カルマが爽やかな笑顔を浮かべて親指を立てると、ジャンは頭をかきながら小さく頷いた。

「聖術を褒められると嬉しいな」

「その割にリアクションが少ないが、まあいい。俺は大人しく帰るとするか」

 カルマは少し歩いて、足を止めた。


「役人たちはどこだ?」


「私を見た途端に逃げ去りましたわ」


 ダリアが教えると、カルマは硬直した。

「マジか……道順なんて知らないぜ」

「来た道が分からないの!?」

 ジャンが両目を見開くと、カルマは当然のごとく頷いた。


「戦闘に集中するために、道順は役人たちに任せていたからな。覚えていなかったぜ」


「つまり……迷子なんだね」


 ジャンが同情の視線を浮かべる。

 カルマは胸を張って豪快に笑った。

「つい最近大人の仲間入りをしたけどな!」

「大人だったら道順くらい分かっておこうよ! ダリアもそう思うよね?」

 ジャンに問いかけられて、ダリアは視線をそらした。

「道を覚えるのは苦手ですの」

 エクストリーム王国では、常にロベールか侍女たちが道案内をしてくれた。

 ジャンは戸惑いながら曖昧に頷いた。

「そうかぁ……苦手なものは仕方ないよね」

「そうだな、帰れないもんは仕方ないよな!」

 カルマは力強く頷いた。


「誰かが迎えに来るまで泊めてくれよ」


「参ったな……空いている家も部屋もないよ」


「誰かと一緒でもいいからよ。このとおり!」


 カルマは両手を合わせた。

 ジャンは両腕を組んでしばらく考え込んだ。

「僕と同じ部屋でいいなら」

「それで頼むぜ!」

「物置きだけど、いいかな?」

 ジャンが問うと、カルマは両目をパチクリさせた。

「村長の息子なのに、物置きなのか?」

「部屋はダリアにあげたから」

「じゃあ、ダリアと同じ部屋にするぜ」

 カルマが当然のごとく言うと、ダリアの雰囲気が変わった。

 凍てつく視線を浮かべている。

 微笑んでいるが目元が笑っていない。

「丁重にお断り申し上げますわ。この場で息の根を止めてあげてもよろしくてよ」

「殺気が分かりやすいな! 分かった。あんたと一緒の部屋は諦める。ジャン、よろしくな!」

 カルマが片手をあげると、ジャンは笑顔で頷いた。

「絶対に大人しくしてね」

「当たり前だ! 暴れたらそっちの令嬢に殺されるのが目に見えているからな」

 カルマがけらけらと笑う。

 ダリアは誰にも聞こえないように溜め息を吐いた。


「部屋をカルマに譲って、私はジャンと物置きに住むのも良かったのかもしれませんわね」


「みんな、畑仕事を再開しよう! 日が落ちる前に頑張るぞ!」


 ガイがパンパンッと手を叩いた。

 畑仕事を再開する村人たちを眺めながら、ダリアは微笑んだ。

「私のスローライフが邪魔されないようにするだけですわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る