ダリアVSカルマ

 ダリアは村人たちに微笑みかけていた。

 休憩時間が終わったはずの村人たちが、山菜採りから戻ったダリアを歓迎したのだ。

「よく頑張った!」

「大丈夫だったか?」

「ジャンはしっかり教えてくれた?」

 様々な質問や励ましを投げかけられていた。

 ダリアは質問の一つ一つに微笑みながら答えていた。ジャンが山菜採りのコツをしっかり教えてくれたおかげで、思ったよりも山菜を集める事ができたのだ。

「楽しかったですわ」

 そう締めくくると、村人たちが歓声をあげる。ダリアの顔を見た途端に、役人たちが逃げ出したのも含めて歓喜に満ちていた。

「良かった~」

「うむうむ、楽しいのが一番じゃ」

「こんなに喜ばれてジャンも幸せね!」

 村人たちの嬉しそうな顔を見ると、ダリアは安らいだ。気楽に話ができるのは良い事だ。

 村人たちが気合いを入れる。

「儂らも畑仕事を頑張らねばならぬのぅ」

「またお話してね~」

 村人たちが散り散りになる。

 そんな時に、一人の男がずんずん歩いてきた。赤髪の男で、大剣を背負っている。

 その男に気づいた時に、村人たちが笑顔になる。

「おお、カルマか!」

「村長とは話ができたか?」

 村人たちの質問に対して、赤髪の男カルマは親指を立てる。

「バッチリだぜ。ダリアという女がいるんだってな」


 カルマは含みのある笑いを浮かべる。


「フランソワ王太子の婚約者と名前が同じなのは偶然か?」


 ダリアは答えられない。表情がこわばる。

 一瞬の間がカルマを確信させる。

「まあ、どっちでもいいぜ。ちょっと頼みがあるんだ」

「……聞くつもりはありませんわ」

 ダリアはやっとの想いで口を開く。

「私はスローライフを満喫するのに忙しいのです」

「へぇ、エクストリーム王国を見捨てるつもりなのか。とんでもない事だな」

 カルマが足を止めて、大剣の柄を掴む。

 ダリアは苦笑する。

「フランソワ王太子の婚約者かどうかなんて、どちらでも良いのではありませんの?」

「ああ、俺はどちらでもいい。それより俺の頼みを聞いてくれよ」

 カルマが大剣を抜き放つ。

 風がどことなく強くなっていた。

 村人たちの緊張をよそに、カルマは豪快に笑う。


「俺と勝負して負けても文句を言わないでくれよ。暗き祈りよ我に力を、ファイアーライン」


 大剣を横方向に薙ぐ。

 刹那、大剣の軌跡を辿るように炎の線が浮かび上がる。炎の一線はダリアに向かう。

 村人たちが悲鳴をあげる。

 ダリアは額に汗をにじませた。


「魔術の使い手ですわね。暗き祈りよ我に力を、タイムストップ」


 炎の一線が空中でピタリと止まる。

 カルマは咆哮をあげて大剣を持ち上げて、勢いよく振り下ろした。

「まだまだぁ! 暗き祈りよ我に力を、ファイアーアロー」

 大剣の軌跡からいくつもの炎の矢が召喚されて、ダリアへ襲い掛かる。

 ダリアは小さく溜め息を吐いた。

「少しはやりますわね。暗き祈りよ我に力を、タイムストップ」

 数本の矢が空中で止まる。

 カルマが大笑いをあげて、大剣で円を描く。

「大したもんだ! だが、これはどうだ? 暗き祈りよ我に力を、ファイアーボール」

 燃え盛る人間大の球がダリアに向かう。

 ダリアは優雅に右手を前に突き出した。

「おやめになる方が身のためですわ。暗き祈りよ我に力を、タイムストップ」

 炎の球の動きが止まる。村人たちの安堵の溜め息が聞こえる。

 しかし、まだ勝負はついていない。

 ダリアに向かう足音が聞こえた。急激に距離を詰めている。

 カルマが大剣を振りかぶっていた。常人には反応できない速さだ。


「もう呪文が間に合わないだろ! もらったああぁああ!」


 カルマが歓喜の咆哮をあげた。

 村人たちが絶叫する。

 しかし、ダリアの余裕は崩れない。


「暗き祈りよ我に力を、タイムリバース」


 ダリアは呪文を唱えていた。

 カルマの意思に関わらず、カルマは大剣を振りかぶったまま後退していた。

「な……!? 速すぎる!」

 驚愕の表情を浮かべるカルマに、ダリアは優雅な微笑みを向ける。


「口が速く回るのは貴婦人の特権ですの。思い知りなさい。暗き祈りよ我に力を、タイムリフレクト」


 ダリアは常人ではなかったのだ。

 カルマが放っていた猛攻の数々が、カルマがいる方向へ戻っていく。

「嘘だろおおぉおおお!?」

 カルマは村中に響き渡る悲鳴をあげた。

 猛攻のいくつかは大剣で弾いた。しかし、最後の炎の球だけはどうしようもない。

 カルマの表情に絶望が浮かぶ。

 そんな時に、ジャンが走ってきていた。


「このままじゃ村が燃えちゃう! 聖なる祈りよ我に力を、ステータス・リターン」


 炎の球が白い光を放つ。徐々に勢いがそがれていく。

 完全に消えるまで時間が掛かりそうだ。消える前にカルマを燃やすだろう。

 ダリアはクスクス笑っていた。


「ジャンらしいですわね。特別にお付き合いしますわ。暗き祈りよ我に力を、タイムストップ」


 炎の球は、カルマの鼻先で止まった。やがて小さくなっていき、拳大になってから急速に消えて、跡形もなくなった。

 カルマは大剣を握ったまま両膝をついた。

「思った以上の化け物だぜ」

 そう言いながら敗北を認めるしかなかった。

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