カルマの到着

 トッカータ村はお昼間になった。

 日の光が昇りきり、辺りを眩く照らしている。村人は腹を空かせた。休憩をする時間になった。畑仕事に区切りをつけて、家に帰ろうとする。

 そんな村人たちの耳に馬蹄の音が響く。複数だ。役人たちがやってきたのだ。

 相変わらず下卑た笑いを浮かべた役人たちを目にして、村人たちは互いに顔を見合わせた。

「何のために来たんだ?」

「重い課税は無くなったのに」

 村人たちがざわつくと、体格の良い役人のリーダー格が親指を下に向けた。


「俺たちが簡単に引き下がると思うな! チート級の男を連れてきたんだ!」


 言われてみると確かに、リーダー格が乗る馬に、赤髪の男が乗っている。

 赤髪の男は大剣を背負っている。

 リーダー格が勝ち誇った笑みを浮かべる。


「昨日は変な女のせいであり得ない事になったが、今回はそうはいかない! カルマの強さに恐怖しろ!」


「威勢よく吠えてる所わりぃが、今は暴れるつもりはないぜ」


 赤髪の男カルマが口を開くと、リーダー格は唖然とした。他の役人たちも、開いた口が塞がらないようだ。

 カルマが馬から降りて、片手を上げる。

「よろしくな!」

 カルマの簡単な挨拶に、村人たちは笑顔を向けた。

「良い挨拶じゃ」

「役人と違って信頼できる」

「よく見ればイケメンね」

 村人たちから好感触だった。

 リーダー格は両肩をワナワナと震わせた。

「カルマ! こんな事をしたら村人になめられるだろ!」

「俺に命令する気か?」

 カルマの雰囲気が変わる。眼光鋭く、役人たちを睨みつける。

 リーダー格も含めて何も言えなくなった。

 カルマは言葉を続ける。


「俺は守るべき領地じゃなければ、戦いたい相手と戦う。余計な事をするな」


 役人たちはコクコクと頷いた。

 カルマは再び笑顔を浮かべて、村人たちに向き直る。

「あんたらと話がしたい。いいか?」

「もちろんだ!」

 村人たちは、トッカータ村のトイレの場所や畑仕事の苦労など、カルマが頼んでもいない情報を口にする。

 カルマは笑顔のまま聞いていた。実は聞き流しているなど、誰も気づかなかった。村人たちはすっかりカルマを信用し、話に夢中になっていた。

 村人たちの話が止まらない中で、カルマは頃合いを見計らってそっと口にする。


「そういえば、この村は新しい住民がいると聞いた。どんな人間だ?」


「ああ、深紫色の髪の女の子か。美人で強くて、素晴らしいぞ!」


 深紫色の髪。

 カルマが聞いた魔術の使い手と、特徴が一致する。

 カルマは興味深そうに両目を細めた。

「会ってみたいな。どこにいる?」

「どこかな……たぶん山菜採りだと思うが、山は広いからのぅ。ジャンと一緒だったのは見たのじゃが」

「ジャン?」

「村長の息子じゃよ。この先に家がある。村長がいると思うから、尋ねると良いかものぅ」

 カルマは思わずニヤついた。あまりにも順調に情報が入るから、怖いくらいである。

「分かった、村長に尋ねてみるぜ。ありがとよ!」

 カルマは片手を振って、人だかりをゆったりと振り切る。

 村人たちは笑顔で見送った。

「また何かあったら声を掛けてよいぞ」

 カルマは親指を立ててその場を後にした。

 村人たちは散り散りになる。

 一方で役人たちは呆然とした。

「俺たちはどうすればいいんだ?」

 その問いに答えられる人間は誰もいなかった。

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