新たな襲撃!?

ダリアの住処

 食事会は夜まで行われた。喜びのあまり誰も帰ろうしなかったのだ。食事会といっても、村人たちは途中から歓談を始めていた。会話の内容は、ダリアの功績を称える言葉で埋め尽くされていた。役人たちに何もされなかったのが心から嬉しかったようだ。

 ダリアの周りにはひっきりなしに村人が集まり、話しかけてきた。村を救った勇敢な美人さんと言われて、悪い気はしない。

 ダリアにも、村人たちにとっても楽しい時間となっている。

 しかし、ガイだけは憂える事があった。

「こんな夜遅くまでみんなが起きている」

 子供まで元気にはしゃいでいる。明日の畑仕事に差し支えるかもしれない。

 ガイはパンパンッと両手を叩いた。

「そろそろお開きにしよう! 明日の畑仕事があるからな」

「えー!? 明日の朝に絶対に起きるからもっとダリアとお話しさせてよ!」

 真っ先に抗議したのはジャンだった。

 ガイは苦笑した。


「ダリアだって疲れるだろう。そろそろ休ませてあげよう」


 実のところ、エクストリーム王国にいた頃に夜会があったため、ダリアにとって夜遅くまで起きている事は体力的に問題ない。むしろ夜通しのダンスが無いため楽なくらいだ。

 しかし、ダリアの余力のままに食事会を続けたら村人たちは徹夜になるだろう。どこかで区切りを付けなければならない。

 ダリアは恭しく一礼した。

「身に余る歓待をいただき、嬉しかったですわ。今日はもう休ませていただきますが、また機会があればお話しましょう」

「休むのかぁ。寂しいけど仕方ないね」

 ジャンは残念そうな顔をするが、うんうんと頷いた。

「そういえばどこで休むつもりなの? 近くに家はあるの?」

「森で適当に休むつもりですわ」

 ダリアが答えると、ジャンは首を何度も横に振った。

「そんなのダメだよ! 森は夜になると一段と物騒になるし、村の英雄を野宿させるなんて」

「私が住む場所はないでしょう。新しく家を建てさせるわけにはいきませんし」

 ジャンを含めて村人たちが、両腕を組んで悩み出した。

「家を余分に構えておく余裕は無かったのぅ……」

「空いていた場所は物置きに使っちゃっているし」

 村人たちは悩むが答えを出せなかった。

 そんな中でジャンは何かを思いついたかのように両手をパンっと鳴らした。

「僕の部屋を貸すよ!」

 笑顔を向けるジャンに、ダリアは意地悪く笑った。


「私を男の子の部屋に招くなんて、思い切った事をなさるのね」


「そ、それは……どうしよう。誰の部屋に入れればいいんだろう」


 ジャンは顔を真っ赤にしながら、頭をかきむしっていた。

 ジャンの動揺する様子が面白くて、ダリアはクスクス笑う。

「あなたと同じ部屋でも構いませんわ。お好きになさい」

「僕は適当に部屋を作って寝るよ。ダリアはゆっくりしてね」

「お気遣いに感謝しますわ」

 ダリアがお礼を述べると、ジャンは納得したように頷いた。


「それじゃあ食事会はお開きにして、みんな休もう! また明日~」


 ジャンが片手を振ると、村人たちも片手を振りながら家に戻っていった。

 豊かな星明かりと、穏やかな風は心地よかった。

「明日もスローライフを満喫できると良いのですわ」

 ダリアは微笑んで、家路を辿るジャンとガイのあとを歩くのだった。



 ダリアの住処が見繕われた頃に。

 トッカータ村を追い返された役人たちはテーブルを囲んで酒を飲んでいた。

「こんな時に飲まずにやってられっか!」

 酒瓶がどんどん空っぽになっていく。役人たちは荒れていた。

「ギュスターブ公爵の名前を出したのに怖がらないなんて、あの女絶対におかしい!」

「……教養がないだけじゃねぇのか?」

 壁に寄りかかる男が、口を開いた。赤い髪を生やす男で、長身で筋肉質だ。背中に大剣をつけている。大剣の柄には黒い宝石が埋め込まれている。

 役人たちはヒステリックに悲鳴をあげた。


「聞いてくれよ、カルマ。本当におかしい女だった! 顔はかなり良かったのに、変な技で俺たちを苦しめたんだ!」


「どんな技だ?」


 カルマと呼ばれた赤髪の男が眉をひそめる。

 役人たちは当時の状況を口々に説明する。

「急に身体が動けなくなった!」

「全員が行動できなくなるなんてなぁ……」

「スローライフを邪魔するのならお覚悟をとか、ふざけやがって!」

 役人たちの言葉を聞きながら、カルマは両腕を組んだ。


「魔術の使い手と思ってほぼ間違いないな……さて、どうやったら倒せるかな」


 カルマが獰猛な笑みを浮かべると、役人たちはバンバンとテーブルを叩いた。

「そうだ、おまえがヤレ!」

「高い金を払っているんだ。守護する範囲を広げろ!」

 役人たちの命令を耳にして、カルマの表情が変わった。

 獰猛な目付きのまま、笑みが消えている。触れただけで切り刻まれそうな殺気を放っている。死線を越えた者たちでも背筋が凍るほどだ。役人たちは、鼻水を垂らしながらその場で固まるしかなかった。明らかに弱い立場の人間や無抵抗な人間相手にしか武器を振るったことがなく、まともな戦闘経験のない彼らは何もできない。

 カルマは舌打ちをする。

「勘違いするな。こっちは命をかけてんだ。高い金をもらうのは当り前だ」

 カルマの言葉の一つ一つに、役人たちはコクコクと頷いた。

 カルマは目元が笑っていないまま、口の端を上げる。


「給料を倍にしろ。そうすれば、その女を倒しに行く」


「倍は……多すぎるかな……」


 役人がしどろもどろとなる。

 カルマが睨むと黙り込んだ。


「倍は良心的だぜ。このままだと役人をなめてかかる連中が大量に出てくる。税を納めなくても生活できるなんて勘違いが広がるだろう。そうなれば国は成り立たない。国を守るために、たった一人の男の給料をあげるだけだ。悪くないだろ?」


 カルマの言葉に役人たちはコクリと頷くしかなかった。

 カルマはニヤついた。

「交渉成立だ。あんたらが倒してほしい女の特徴をあらいざらい教えろ」

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