トッカータ村壊滅の危機!?
トッカータ村が長くない理由を尋ねると、ガイは神妙な面持ちになった。
「話せば長くなるし、辛気臭くなる。とにかく食べよう」
「気になってお食事をする気になれませんわ」
ダリアがキッパリと言うと、ガイはジャンと顔を見合わせた。
「ダリアが聞くべき内容ではないと思うのだが……」
「でも、ここまで口にして話さないなんて、仲間はずれにするみたいで嫌だよ。全部話そうよ」
ジャンが促すと、ガイは両腕を組んでうなる。
「巻き込むつもりはなかったが……」
「勘違いをなさらないでくださる? お話を聞いても、私が何かするなんて一言も申し上げておりませんわ」
ダリアは優雅に微笑む。
「お話を聞いただけで無茶に走るほど愚かではありませんの。とりあえず興味を惹かれたので教えてくださる?」
「そこまで言ってもらえたら、かえって気が軽くなる」
ガイは豪快に笑った。
「トッカータ村の状況から愚痴までいろいろ話したくなる。何から話そうか……」
「この村がなくなる理由を話してくださる? 小さな村としては、人の行き来はまあまあですし、野菜や果物を用意できますのに」
若い人がいないのは気になったという言葉は飲み込んだ。
ガイが照れくさそうに鼻をかく。
「ありがとう。美味しい野菜や果物は自慢の産物だ。トッカータ村がなくなりそうな理由は、簡単な事だ。税をひどく重くされてしまった」
「あら、どうしてですの? 反逆罪に触れてしまう事でもなさいましたの?」
役人には、懲罰と称して課税をする人間もいる。罪人からいくら取り立てても、周囲の人間は何も言わないからだ。
しかし、ガイやジャンに犯罪を犯すような気配はない。
ダリアが首を傾げると、ガイは苦笑した。
「常に野菜や果物を用意できるのはおかしいと言われてしまった。トッカータ村の気候は恵まれていて、土の質や太陽が当たる時間も考えて野菜や果物を育てている。もちろん水の量もだ。しかし、他の街や村は同じ方法で育たないから、嫉妬されたのだろう。場所が違えば野菜や果物の育成方法が異なるのは当たり前なのにな」
「酷い言いがかりですわね」
ダリアが素直な感想を口にすると、ジャンは深々と頷いた。
「本当に酷い話だよ! 到底支払えないような税を求められて、挙げ句の果てに税が払えないなら若い人手をもらっていくと言われたんだ! 奴隷にするつもりなんだ! そんな事を言われたら、若い人たちには隠れてもらうか逃げてもらうしかないよ」
ジャンの表情が曇った。
「悔しいし、村長一家として村もみんなも守りたいよ。でも、どちらも守ろうとするのは現実的じゃないんだ」
「愚かな話ですわね。明らかな愚行を正さずに、やらなくても良い事をするなんて」
「分かっているよ! 僕だってトッカータ村が消えるなんて嫌だよ!」
ジャンは両手でバンっとテーブルを叩いた。口調が荒くなる。
「でも、若い人がいなくなるんだ! トッカータ村に未来は無いよ!」
「どうして決めつけますの? 不当な課税をやめさせれば良いだけですのに」
ダリアは穏やかに笑った。
不意をつかれたのか、ジャンは両目をパチクリさせた。
「役人に逆らうの? そんな事をしたら、それこそ反逆罪になると思うよ」
「無茶な課税をやめるように納得してもらえば良いのです。
「ダリアが役人を説得してくれるの!?」
ジャンの声は裏返り、ガイの両目は見開いた。
ダリアは口元に片手を当ててクスクス笑う。
「説得ではなく命令しますわ」
「本当に!? ありがとう、御礼なら何でもするよ!」
ジャンの両目が輝いた。
ダリアは愉快そうに両目を細める。
「それなら私のスローライフに協力してくださる? 私はスローライフを太く短いものにするつもりはありませんの」
「僕にできる事なら何でもするよ……!」
ジャンの顔色が急激に悪くなる。
馬蹄の音が近づいてくる。複数だ。
ガイが溜め息を吐く。
「ダリア、気持ちはありがたいが俺に任せてほしい。役人を敵に回すのは得策ではない」
「父さん、ダリアは魔術を使えるんだ。期待していいと思うよ」
期待していいという言葉とは裏腹に、ジャンは全身を震わせている。怖がっているのだろう。
ガイはジャンの両肩を軽く叩いた。
「ダリアと一緒に隠れていろ。見つかれば、おまえが連れていかれる可能性がある」
ジャンはコクリと頷いた。
ダリアは顎に片手を当てて小首を傾げた。
「本当に任せてもよろしくて?」
「任せてもらうしかない。最善を尽くす」
ガイはそう言って家を出て行った。
ダリアは一口大に切られたりんごを頬張り、飲み込んだ。心地よい甘みと喉越しに潤される。
「任せるように言われたから様子をみますけど、場合によっては手を出させてもらいますわ」
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