第59話ラダンifストーリー2

「もう時間が無いわ。カーレルは今、貴族達と会合に出ている。どうやら先日、シャロアちゃんに王女が暗殺を指示していたようなの。

元騎士達はエレゲン家に返り討ちにされたそうよ。

そして今、王女は暗殺指示を出していた事で我が家に嫁ぐ日を早めるか教会に送るかで揉めているらしいわ。ラダン、至急王女に連絡を取りなさい。

なんとしても王女を潰さねばなりません」


……シャロアを殺そうとした??


俺は怒りでどうにかなりそうだった。初めて王女を殺してやりたいとさえ思った。許すことは出来ない。

修道女になれば更生したと数年で王家に戻ってくるだろう。


絶対に許さない。


で、あればやはりゴダン男爵の正妻に収まって貰う方がいい。彼は裏切りに容赦はしないだろうからな。男爵本人も王女を伝手に王家の名と財産を狙っているのだから罪悪感を覚える事もない。


それから俺は王女に連絡を取った。


エリアーナ王女は監禁状態だといいながらも侍女が問題なく取り次いだ。『私の知り合いが商会を営んでおり、美しいエリアーナ王女に是非身につけてもらいたいと装飾品を持ってきますが良いでしょうか?』という内容。


王女はすぐに承諾した。


その辺り警戒心が薄いのはまだ幼いからだろうか?


まぁいい。俺はほくそ笑んだ。





翌日すぐにゴダン男爵は一張羅を来て王女の元に向かった。俺とゴダン男爵はすぐに王女の待つ部屋へ入る事ができた。


「ラダン様! 待っていたわ! 私の隣に座りなさい。で、今日は彼を連れてきたのね」

「はい。彼の名はフェルディナン・ゴダン。今彼の商会は王都で一、二を争う程の人気なんだそうです。

是非、エリアーナ王女様に取り次いで欲しいと言われたので今日は連れてきました」


彼はすぐに箱から宝石のちりばめられた腕輪を取り出して見せた。


「式典で見たエリアーナ王女様にインスピレーションを感じてすぐにこの腕輪を作らせたのです。

エリアーナ様は遠目で見た時に美しいと思いましたが、こうして間近でお会いするとより美しさが分かります。

あぁ、どうか私を下僕の一人としてお抱え下されば幸いです。どうか腕輪をお受け取り下さい」


彼の口から滑らかに出てくる言葉。感服せざるを得ない。


その後も男爵は王女を褒めた。


まんざらでもない様子で心を開いた後、『とある貴族から聞いたのですが』と前置きし、エリアーナ王女に話をする。


「現在貴族の会議でエリアーナ様の今後を話し合っていると聞きました。このままでは死ぬまで修道女として暮らすことになるようです。

こんなに美しい姫が修道女として枯れるなんて国の損害だ。本当に残念で仕方がありません」


ゴダン男爵は気落ちするように話をすると、エリアーナ王女は憤慨し、立ち上がった。


「どういう事!? 私が修道女!? 有り得ないわ!!!」


俺達はこの時を待っていた。俺は立ち上がり、王女の顔を自分の方に寄せた。その隙にゴダン男爵は自分のカップに薬を入れる。


「エリアーナ王女様、落ち着いて下さい。大丈夫です。大丈夫だからひとまずお茶でも飲んで」


ゴダン男爵はエリアーナ王女に薬入りのお茶を差し出した。


「えぇ、取り乱してしまったわ。ごめんなさい。そうね、一旦お茶でも飲んで落ち着くわ」


そう言って彼女はゴダン男爵からお茶を受け取った。


「あぁ、美しいエリアーナ様、隣に座っても?」

「えぇ、かまわないわ。ふふっ。嬉しいわね。美しい男が私の下僕になりたいだなんて」


王女に付いている侍女や護衛達はいつもの事なのでもはや何もいうつもりもない様子。

しばらく会話を続けていると、薬が聞いてきたようだ。


「ふふっ、嬉しいわ。少し熱くなってきたわ。フェルディナン、私にキスをしてちょうだい」

「構いませんよ?ですが侍女と護衛が五月蠅い様子ですが……?」

「どうせ私は修道女になるのでしょう? だったらこれくらい許されるわ。いつもしているのだし。貴方達、下がりなさい。これは命令よ!」

「「「かしこまりました」」」


王女は従者達を部屋から下がらせた。本当なら許されない事なのだが、王族からの命令は今も有効のため従うしかないのだ。俺とゴダン男爵は視線を合わせた。


「エリアーナ様、これはいけない。ドレスが苦しくありませんか? こちらで少し緩めて差し上げましょう」

「ゴダン、有難う。あぁっ、なんだかゴダンの手が暖かくて気持ちいわ。もっと触って欲しい」


ゴダン男爵は優しく王女をベッドまで運び、ドレスを脱がせるのを見届けた後、俺は部屋を出た。


部屋の外では心配そうに侍女がしている。


「あぁ、俺も追い出されてしまったよ。命令だから仕方がないな。……侍女だろう? そろそろ止めに入った方がいいんじゃないか?」


俺はわざと間をおいて声を掛けた。いつも王女の命令で待機していたが、俺の言葉で不安になった侍女はウロウロと扉の前で動き始めた。


そして王女の奇声で驚いた侍女と護衛は扉を開けることになった。


……後は言わずもがな。


ゴダン、ゴダンと彼を求めるエリアーナ王女を目撃する侍女や護衛。その異様さに近くにいた従者が気づき、王女の痴態を目撃し、陛下へと報告しに走り去ってしまった。


……ククッ。いい気味だ。日頃の行いだな。


決まりかけていた貴族達の会合はこれによりまた紛糾する事になったのは言うまでもない。


結局、王女はゴダン男爵に嫁ぐことが決定となった。幽閉されるよりは商会長の妻としてそれなりに裕福に暮らせるのだから良いだろう。

まぁ、愛人や跡取りの子供たちは既にいるから肩身は狭くなるだろうが。

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