第58話 ラダンifストーリー1
本編37からのifストーリーになります。
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「婚姻が無効にされた。先ほどエレゲン伯爵と二人、陛下に呼ばれて王命により無効にされたのだ」
「……父上、本当ですか?」
「すまない」
父はその事で憤りを隠しきれていない。もちろん隣で話を聞いていた母も扇を持つ手が震えている。
「ありえないわ! 本当にありえない! なんなのっ。我が家を愚弄するのいいところだわ!」
「あぁ、もちろんだ。このままでは王女は何としてもラダンに嫁ぎに来るだろう」
「何とか避けないと……」
「私にも考えがある。だが、時間が足りない。グレイス、ラダンこの計画を進めるためには急いで動かねばならん」
「分かったわ」
「あの王女と結婚するぐらいなら何だってやる」
父はこれから会合が開かれると話をしていた。そして無理やり俺と王女を結婚させるための筋書があるのだと陛下は言っていたようだ。
その王家が考えた筋書きとは式典の時に二人は出会い、お互いが好きになった。
俺には婚約者がいたが、愛の無い政略結婚の相手。愛を貫くため陛下に婚約を申し出て王女との婚約を勝ち取る。
シャロアは別の相手を好いていたため、好いていた子息と婚約するのを勧めると諸手を挙げて喜び了承したという事のようだ。
これで円満解決なのだとか。
馬鹿にするにも程がある。俺は怒りで震える。
「ラダン、気持ちは分かるけれど、少し落ち着きなさい」
「……母上、すみません」
このままではシャロアに別の婚約者を無理やり宛がわれてしまう。焦燥感で一杯だ。
「王女が我が家に嫁げないようにするのが一番だろう?」
父の言葉に母は察したようだ。
「なら、男爵位だけど良い方がいるわ」
「あぁ、彼か。王家から越し入れには相当お金を支払うようだから喜んで引き受けるだろう」
そう、王女が我が家に嫁げなくするには処女性を失えばいい。
貴族の中でも婚姻前の交渉は認められていないが、王家は特に厳しい。それは王子妃になる令嬢でも王家から嫁ぐ王女であっても変わらない。
婚約破棄の理由に十分あたるのだ。
だが、王家のことだ。顔の良い平民や男娼を宛がったとしても愛人だと押し通す可能性がある。
男は許されて女は許されないのかと難癖をつけてまで嫁がせようとするだろう。だが、相手が貴族であれば別だ。
爵位を持つ者と閨を共にすれば嫁ぐ意思があると周りから判断される。
だから同じ年代に子息を持つ貴族達はなるべく王女に関わらせないように必死だったのだ。
父や母が目を付けている男爵はフェルディナン・ゴダンという男だ。
彼は商会の会長を務めている男でその手腕は少々強引ながらも折り紙付きだ。
とても野心家な男なので王家から王女が嫁に来るとなれば喜んで協力するだろう。
因みにゴダン男爵はまだ二十代だが愛人に産ませた子供が五人いる。
上位貴族の爵位を得るために上位貴族の令嬢が正妻になるよう正妻の座は開けているのだとか。
それを知っている令嬢はもちろん逃げるに決まっている。お金に困っている貴族を紹介してほしいと母にサロンで話をしていたようだ。
母はすぐにゴダン男爵に連絡を取った。
彼からの返事は『喜んで王女を我が妻に迎えましょう』ということだ。父と男爵が細かな段取りをしている間にシャロアは国外へ行ってしまった。
一刻も早く、彼女を迎えに行かないと。
俺はすぐにエレゲン伯爵に連絡を取った。
城や日中に俺が動くと王家に行動がばれるかもしれない。もちろん警備をしているのはエレゲン伯爵の忠実な部下なので告げ口することは無いとは思うが。
夜にある酒屋にジルドさんと落ち合う事になった。その酒屋は元騎士がやっている酒屋で情報屋でもある。内密な話をする時はこの店が一番いいのだ。
「ジルドさん、呼び出してすみません」
「いや、かまわない。本来なら父がここに来るべきなのだが陛下の息を止めるためにこちらも手が放せなくてな。で、話とは?」
「俺はシャロアと結婚したいと思っています。彼女を必ず迎えに行きます。そのためにゴダン男爵に連絡を取りました」
「……あぁ、彼か。そうだな。彼が一番適任者だろう。ラダン君の言いたいことは分かった。
今、シャロアはショックのあまり修道女になると言っていたんだ。なんとか宥めて今は婚約者を宛がわれないために母と共に隣国へ向かわせた。
母には虫がつかないように伝えておく。あとはラダン君次第だ」
「……有難うございます」
「ではな」
ジルドさんはショットグラスに注がれた酒を一口で煽り席を立った。
ここからが勝負だ。俺は覚悟を決めて夜の闇に消えた。
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