第57話
そこから連日のように貴族で会議が行われた。父も領地から戻ってきてすぐに王宮に登城し、会議に参加している。
毎日疲れた様子で帰ってくる父。公爵家の一つが王家に攻撃をすればすぐに消滅しかねない事態になっている。
だが、それを引き金に内戦が各地で起こることも考えられており、国内の緊張は高まりを見せていた。
そうして何度も話し合いが持たれ、陛下は隠居という名の幽閉が決まった。
我が家もこの事が決まるまでの間、気が気ではなかった。
エリアーナが陛下に連絡を取り、権力を使って余計な事をするかもしれない懸念が払拭できず、客間で監禁状態だった。
「リンデル侯爵、妹のわがままで子息の人生を振り回してしまった事を改めて謝罪する。エリアーナは王族籍からもちろん除籍してある。好きにしてくれてかまわない」
「王太子殿下、謝罪は結構です。息子ラダンはシャロア嬢との婚姻を未だ望んでいる状況です。
ですが、薬を盛られ王女と閨を共にしてしまった事、シャロア嬢が国外へ出てしまった事で息子の状態はあまり良くない」
「……そうか。本当に申し訳ない」
父と王太子殿下との間でそのような話をしていたようだ。
俺はエリアーナが憎くて仕方がない。
いつ殺してやろうか、こんな女をすぐにでも捨ててシャロアに求婚をしたい。
シャロアを迎えに行きたい。
王太子殿下からエリアーナを好きにしてかまわないと許可が降りたら俺はこの手で始末しようと思っていた。
……どうしてこんな事になったんだ。
その日、侍女がいつものようにエリアーナに食事を持っていくと、顔色が悪く食事に手を付けようとしなかったようだ。食事を勧めると、途端にエリアーナは嘔吐し、侍女は驚き執事を呼んだ。
まだ王太子からエリアーナの処分が正式な決定していない以上、放置は出来ないので医者を呼ぶことになった。
「おめでとうございます。エリアーナ様は懐妊されております」
医者の言葉に喜ぶエリアーナ。対照的に暗い顔となった父と母と俺。子殺しは罪だ。子には何の罪もない。
神は俺を見捨てたのか。
俺が何故こんな目に合わなければいけないんだ。
気が狂いそうになる。
「ラダン……。シャロア嬢のことは諦めろ。母親があれでも侯爵家の跡取りが生まれるかもしれない」
「……は、い」
「エレゲン伯爵には知らせを出しておく」
父の言葉が重かった。知らせを出せばシャロアを迎えに行く事が叶わなくなる。だが、子供が生まれたらシャロアはきっと俺を受け入れてくれないだろう。
そこから俺の苦悩の日々が続いた。
風の噂でシャロアが隣国の王弟と盛大な結婚式したと聞いた。
憎い相手を痛めつける事も出来ず、好きな相手と番うことも叶わず。
エリアーナは俺に会いたいと毎日癇癪を起こす様になっていたが、俺はあの女の顔すら見たくない。
子のために家に置いているだけだ。
父も母もエリアーナには最低限しか会わないし、言葉も掛けない。その環境が彼女にとって良くないことは分かっていたが、どうしても許すことが出来なかった。
そして出産の時を迎えた。
生まれてきたのは男児。俺は一目見ただけ。
「ラダン様っ! 私との子供ですのよ! これで我が家は安泰ですわ! これから夫婦で侯爵家を守り立てていきましょうね」
俺は無言のまま部屋を後にした。
自分を自制するのに精一杯だった。
その後、父と母と三人で話をした。生まれた子は跡取りとして母が厳しく育てていく。子が一歳になる時にエリアーナは領地へ送ることになった。
もちろん一人では騒いで従者達に迷惑を掛けるのは目に見えているので病気持ちの見目の良い男娼を三人ほど借り上げ、エリアーナに従者として付けることにした。
思惑通りにエリアーナは喜んで領地へと旅立った。
男達は半年もすればそのまま亡くなるか引き上げて王都に戻ってくるだろう。その後、あの女は一人でどうするのかは関与しない。
殺してやりたいほど憎い相手が去り、ぽっかりと穴が空いた。
……もう元には戻れないんだな。
「とー!とー!」
今日もまた俺を呼ぶ声を抱き上げて複雑な気持ちを抱えて過ごしている。
あぁ、あの頃に戻れるのならどれだけ幸せだろうか。
ラダンside END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます