第51話
王都の宿で母は真剣な表情をして私に聞いてきた。
「ねぇ、シャロア。この国で色々なところへ行ったわ。そろそろ何処に住むか決まったのかしら?」
「お母様、私の失恋旅行に付いてきてもらって感謝しかありません。
この旅で私は様々な人達と出会い、話をして家族の有難みを再確認し、ラダン様との別れにようやく自分自身の中で納得が出来たのだと思います。
王都とエレナとフラーヴァルの街しか見ていませんが、許されるのであればこの王都で小さな家を買い、過ごしていきたいと思いました。フラーヴァルの街に行って王弟殿下の人となりを知り、叶うのであれば王弟殿下の護衛として働くことが出来ればいいなと思っています」
すると母はニコニコと笑顔になった。
「王弟殿下のことはどうなのかしら?」
「どうと言われても返答に困りますが、騎士としてならこの人に仕えても後悔はないと思っています。令嬢として考えるのであればもう少し会って話が出来るのであればしてみたいという感じですね」
フラーヴァルでは邸の使用人達も街の人達も皆王弟殿下のことを素晴らしいと褒め称えていたわ。王城で彼と会った時の印象は悪くなかった。
グイグイくる彼に引いていた部分があったけれど、私のことを思ってくれているのだと思うとじんわりと嬉しい気持ちが湧いてくる。
けれど結婚のことを考えると二の足を踏んでしまう自分がいるの。
「そう。ならもう一度ゆっくりと王弟殿下に会ってみればいいんじゃないかしら?
殿下の執事から先ほど連絡をもらってね、旅が楽しかったかどうか聞きたいと言っていたの。もし、殿下がシャロアのことを考えてくれているのならきちんと話をした方がいいと思うわ。
シャロアは婚約や結婚ということに尻込みをしているのでしょう?」
「そう、ですね。不安で怖いのです」
「まぁ、そうよね。婚約が無くなることが二回もあったのだし仕方がないわ」
母は優しく私にそう話した。まぁ、一度断って後からやっぱり興味あります!って言うのも変よね。
「無理にとは言わないけれど、殿下に会った時に聞かれたら素直に今の自分の気持ちを答えなさい」
「わかりました」
母との会話は従者の声で終了となった。
「奥様、王城から使いの者が来ております」
「わかったわ。今行くわ」
母は従者と一緒に部屋を出た。王城からの使者とはどういった内容なのかしら?少し心配になりながらも母が戻ってくるのを待った。
「お母様、王城の使者はなんと言っていたのですか?」
「明日、登城せよ、ということらしいわ。私とシャロアの二人でね」
「何か怖いですね」
「さぁ、どうなっているのかしらね」
翌日、私達は簡易な服装で王城へと向かった。王城へ向かうには本来ならドレスを着ていくべきなのだろうが、私達はエリアーナ王女から逃れるための最低限の服装しか持っていないし、旅を目的としているのでドレスでの登城はしなくても問題はない。
「エレゲン伯爵夫人、シャロア嬢。急に呼び出してすまない」
使者が来るような用件の場合、謁見の間で陛下と面会するのだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
私達が呼ばれて案内されたのはサロン。
陛下はゆったりと座り、お茶を飲んでいる。私達は陛下へ礼をした後、促されるままソファへ座った。
「今日はどういったご用件でしょうか」
「いや、特に用件という訳ではないのだが、クリフォードが気に入った令嬢を儂が見てやろうと思って呼んだのだ。あやつは異母兄弟だが可愛い弟だからな」
陛下はクスクスと笑いながらそう言った。気に入られているのかはよく分からないところ。
殿下にあれから会っていないのだ。
「王弟殿下のおかげで普段訪れる事のできない直轄地に訪問できたのは感謝しかありません」
「おお! そうだったな。フラーヴァルの地はどうであった?」
私達はフラーヴァルの街で感じたことを素直に答えた。陛下はうんうんと自分が褒められているかのように嬉しそうに頷いていた。
突然、サロンの扉がバタンと大きく開かれた。
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