第43話
護衛騎士三名を幌馬車で王宮に向かわせることにして私達はまた馬車へと戻り、検問所を目指す。
母を含め、みんな怪我しなくて良かったわ。まだ気は抜けないけれど、山場は越えたように思う。まだ気は抜けないけれど。
そうしてようやく三日目の昼に検問所まで到着した。
「クローディア様、ソラス達を残して我々は先に邸に戻ります」
「ここまでの護衛、ありがとう。後は大丈夫よ。ボルボアのことを宜しくね」
ここまで一緒に行動していた伯爵家の護衛達に別れを告げ、旅をする最低限の人数になった。ここまでくれば追手が来ることはない。
さすがに王女の命令で隣国へ渡るのは余程の重要な案件だけだ。王女の私怨というだけでは隣国も黙っていない。
もちろん隣国へ行き来する馬車も多いので、街道を外れなければある程度の安全は守られている。
このまま私達はダーウィル国の王都に向かい観光をすることに決めた。
ダーウィル国に入ってからは緊張も解れてようやく旅をする感覚になった。それまではやはり命を狙われているのではないかという緊張と不安が勝っていた。
ラダン様のことを忘れることはまだまだ出来そうにないけれど、私が泣いて騒いでも事実は変えられない。
馬車の中で母が最後にラダン様に会わなくて良かったのかと聞かれたけれど、これでいいのだと返事をした。
会う勇気がなかった。
怖かった。
会ってしまえば離れたくなくなる。
一緒に逃げようと言ってしまうに決まっている。
大恋愛の末の逃避行と聞こえはいいけれど、両家に責任が重くのし掛ってくる。私のわがままのために周りを巻き込めない。会わずに旅に出ることは逃げでしかないのは分かっているわ。
でも、だって。
考えれば考えるほど言い訳ばかり出てくるの。
ラダン様の事を考えるだけで涙が滲んでしまう。だから、今は考えないようにする事で精一杯なの。
私達は順調にダーウィルの王都まで来ることが出来た。私達がいたミローナ国とはまた違った趣のある都市。
小高い丘を切り崩して都市を建設しているのだと思う。一番高いところに城が見える。そして城を取り囲むように街が作られていて緩やかだけれど坂道が多く、年寄りには大変かもしれないと思ってしまう。街の中心部には沢山の露店がひしめき合っていてとても賑やかだ。
今日は早めに宿を取り、私は母と街を散策することにした。王都なだけあって貴族が宿泊する用の宿は沢山あったわ。王都の入り口には検問所があったのだけれど、そこでお勧めの宿を聞いて良かった。
私達が選んだ宿は下位貴族が宿泊する宿にしたの。質素だけれど、部屋は広くて使いやすい。久々の宿で私も母も観光より先に休むことにしたわ。もちろん隣の部屋には護衛や従者達の休む部屋もある。
久々の湯浴みに疲れも取れる。
今頃父達はどうしているだろう。
宿に着いたので父に手紙を書いて出す。私達は旅の間は移動が多く父からの連絡は来ない。こればかりは仕方がない。
翌日は母と王都観光をすることになった。時計台や露店などを中心に歩いて見て回る。
もちろん護衛も付いているけれど、私達は旅の装いで帯剣している。王都は治安が良いため仮面まではしていないが。
母は久々の街ということもあり、とても浮かれているわ。いつも街へは買い物に出る位で王都の外に出ることがない。
父と結婚する前までは私同様に村々へ視察や野盗狩りに出掛けていたらしい。
勇ましい性格は母親譲りなのかもしれない。
数日間掛けて王都を満喫する私達。名物料理のホロン牛の煮込みを食べた時の衝撃は凄かったわ。トマトベースのスープに厚切りステーキのような巨大な肉が入っていたの。
長時間煮込まれた肉はとても柔らかくて私も母もすぐにペロリと食べてしまったのは言うまでもない。
ダーウィルでは最近砂糖が出回りはじめているようで甘い菓子が売られていた。私達も砂糖を使った菓子はとても高価であまり口にすることが無かったからこれには驚いた。
この国では平民でも少し高いが手の届く値段で砂糖を使った菓子が食べられるのね。あと数年もすればミローナ国でも安価で食べられるようになるかもしれない。
王都で観光を続けているとダーウィル王家の話も耳にする。第一王子が王太子になるとか第三王子が牽制しているようだと。
確かエリアーナ王女と婚約を結ぼうとしていたのは第三王子だった。
どのような人物なのだろうか?
まぁ、一介の旅人でしかない私にとって雲の上の人物だし、そこまで考えても仕方がない。ただ、護衛騎士として働く予定なので貴族の動向は知る必要があるので耳にしておいて損はない。
「シャロア、王都観光も楽しいけれど、そろそろ次の街に行ってみない?」
「お母様、そうですね。海の見えるエレナの街に行ってみたいです」
「いいわね! 次はエレナの街に行ってみましょう」
次の目的地を決めて私達は王都を出発した。
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